第189話:主人公との初邂逅

 俺はそれからすぐに二人の傍に駆け寄っていった。


「一体どうしたんだよ?」

「え? あ、雅君……」

「えっ?」


 俺はそう言いながら紗枝と坂上の間に入っていった。すると二人はビックリとしたような顔を浮かべ始めていった。


「まぁ何を言い争ってたのかは知らないけどさ……でも女の子に対して馬鹿って言うのは駄目だろ? なぁ、紗枝……って、えっ!?」


 さっきそんな言葉がチラっと聞こえてきたので、とりあえず俺はそれは駄目だと坂上に注意していった。


 そして俺はそれから紗枝の方に振り向いていつも通り挨拶をしようと思ったんだけど……その時、紗枝が泣いている事に気が付いてしまった。


「な、何で紗枝が泣いてるんだよ!? ほ、本当にどうしたんだよ? もしかして具合でも悪いのか?」

「えっ? あ、ううん、私は全然元気だよ! 何にもないから心配しないで! あ、でも私、ちょっと職員室に行かなきゃならないから……だから先に行くね!」

「え? って、あっ」


―― パタパタ……


 そう言って紗枝は涙を拭きながら駆け足気味に学校へと向かって行ってしまった……。


 こうしてこの場には“悪役”の俺と“主人公”の坂上だけが取り残されてしまったのであった。


(あ、でもそういえば主人公の坂上とこんな近距離で出会った事って一度も無かったよな?)


 でも何だかそれって不思議な感覚だよな。だってゲーム本編の主人公はこの坂上なんだぜ?


 そしてそんな坂上を俺達プレイヤーは操作して遊んでいくわけだから、俺達にとって坂上というのは自分自身といっても過言ではないわけだ。


(だからまぁ何というか……過去の自分と会ってるような不思議な感覚になってくるな。同窓会みたいな懐かしい感じというかさ)


 俺はそんな不思議な気分を味わいながらも感傷に浸っていた。


 でもそんな感傷に浸っている俺の姿を見て、主人公の坂上はかなり怒った顔をしながら俺に向かってこんな事を言ってきた。


「お、お前のせいだ! お前のせいで紗枝がおかしくなっちまったんだ! どうしてくれるんだ!」

「……え? 紗枝がおかしくなった? 一体何を言ってんだよ?」


 坂上はブチギレながら俺に向かってそんな意味のわからない事を言ってきた。


「ふざけるな! 紗枝は今まで凄く真面目で普通なヤツだったんだぞ! それなのに最近のアイツは色々とおかしくなってるんだよ! そうなったのは全部お前のせいなんだ!」

「は、はぁ? いや、紗枝がおかしくなってるって言われても……紗枝は何も変わってないだろ? 昔から全然変わらず素直で優しい良い女の子じゃね?」

「そ、そんなわけない! アイツは昔に比べてしょっちゅう素っ気ない態度を取るようになってきてるし、それに隠し事もするようになってきたんだ! 昔の紗枝ならそんな酷い態度を取るような事は俺にしなかったはずなんだ!」

「素っ気ない態度を取られるようになったのは何か理由があったんじゃねぇの? だって紗枝は理由も無しにそんな態度を取るような女の子じゃないだろ。だから坂上が何かやらかした可能性の方が高いんじゃね?」

「は、はぁ!? お、俺はアイツに対して何もやらかしてねぇよ! むしろ何かしたのはお前の方だろ!」

「え? お、俺が? いきなり何を言ってるんだよ? 俺は何もしてねぇよ」


 坂上はそんな事を言ってきたので、俺は訝しげな表情をしながらそう返事を返していった。だって俺は紗枝に対して何もやらかしてないからな。


(……というかさ、こんなにも逆上してる坂上の様子を見ていると、紗枝が泣いてた原因ってどう考えても……)


「いや絶対にお前が何かしたんだ! だって紗枝はお前と付き合ってからおかしくなってるんだからな! というかそもそもお前みたいな不良が何であんな平凡で真面目しか取り柄のない女と付き合ってるんだよ!?」

「え、そんなの好きだからだけど?」

「いいや嘘だ! お前みたいなド不良があんな平凡な女の事を好きになるわけないだろ! ど、どうせアレだろ! お前は紗枝の身体目当てで付き合ってんだろ!」

「そんな目当てじゃねぇよ。そもそも紗枝とはずっと清い交際をしてるから、まだ身体関係なんて一度もしてねぇよ」

「そ、そんなわけない! きっとお前は毎日紗枝の身体を好き勝手に弄んでるんだろ! それで紗枝はお前に完璧に調教されていって洗脳されちまったんだ!」

「いや、流石にそれはエロ本の見過ぎだろ……俺は調教とか洗脳なんて一切してねぇって。というかさ……何で坂上はそんな事を俺に言ってくるんだよ? 俺が紗枝と付き合ったら駄目なのかよ?」

「えっ!? い、いや、それは……」


 坂上が俺に嚙みついてくる理由なんて当たり前にわかってる。だけど俺はもう少しだけ坂上と話すためにわざとそう尋ねていった。


 だって流石にさ……紗枝を泣かした時点で許せるわけないからな……。

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