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同時刻。大阪新都庁総務部、庁舎管理課。名ばかりの事務室の裏にゼロ課連絡室は隠れている。
そこを知って訪ねる者があった。岩のような躰をダークスーツに収めた巨漢二人。
ファイルが詰め込まれた棚ばかり並ぶ室内へ入ると、来訪者は壁の一面に向き呼びかけた。
「監察です」
胸には目立たぬバッジが留めてある。それが、身分を証明するコードを暗号化発信する。
ガチ、とロック解除の音がして、ノブもない壁面がスライドする。
5メートル四方ほどの奥部屋が現れた。
パーテーションで仕切られた先のデスクに、ゼロ課連絡室チーフ――
赤いアンダーリムのレンズ越しに岩男たちを見上げた。サイボーグ特有の分厚い胸板を。
「監察なのに事務屋サンじゃないのね。アナタたち武闘屋サンでしょう。書類仕事なんてわかるの?」
双子のように似通った岩男たちはそろって頬を歪めた。「聞き取りには別の場所が用意されています。ご同行願えますか」
「ウチの報告に疑義でもあったのかしらね」未有は席を立つ。
室内は防諜のため完全密封され窓もない。唯一の出入口は岩男たちが塞いでいる。
「えらいサンの前に出るなら着替えたいわ。一度家へ帰してくれる?」
「それはできない相談ですよ、公方チーフ」左の男が前に出た。
「そう。じゃあ、自力で帰るしかないか」
つまらないジョークを聞いたとでもいうように、厚い唇が曲がる。ゴツイ手が未有に伸びる。
透明なマニキュアを施した指がアンダーリムを外し、天井へ
男の視線が赤い軌跡へ逸れる。
男の腕を巻き込むように未有は投げを打った。巨体が回転し、叩きつけたデスクが割れた。中指を出し気味に握った拳がこめかみを強打する。寸分の狂いもない急所突きに、岩男は昏倒した。
放った眼鏡が落ちてくる。華奢な手がふわりと受けた。
「これ、お気に入りなの。限定品だし」もう一人に微笑みかける。「ワタシがただの事務職だと思った?」
「その加速……ブーステッドなのか」巨体がたじろいだ。速度が圧倒的に勝ると知っている。速度差の前に腕力の優位など消し飛ぶ。
任務遂行のため、それでも岩男は腕を拡げ突進してきた。捕らえてさえしまえば、ゴリラ顔負けの怪力で絞め落とせる。
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