P.02
意識が霞の底から浮上した。夢を見ていたようだ。
あの子供…… 片耳を削がれた男児を思い出す。大昔の記憶だ。
あの子供はその後どうなった? 殺したのだったか。男色の
重層し錯綜する記憶は曖昧だ。
ふっ、と口を歪めた。たかが子供一人。直接、間接に殺した数は万に及ぶ。その内の一人がどうだというのだ。
――ワタシはいつからこの世界に居るのだろう。それを考えると、さざ波のように思考が揺れた。さざ波が不快で、いつも考えることを止めた。止めてどのくらい経つのか。悠久の時間が過ぎたように思える。
悠久がワタシの年齢なのだ……
ワタシは父母をもたない。知らぬうちに存在を始め、現時点でここに居る──ただそれだけのことだ。
躰の下で女が死んでいた。激しい扱いを受け、男の欲情を浴びせられて絶命したのだ。
愛した? 冗談だろう。欲情を解き放つための扱いだけが行われたのだ。
どの女も生きて
赤黒くナマ温かい湿地と化した床を出て、男は冷水を浴びた。凝固しかけた血液の付着物が流れ落ちる。排水口へ赤い渦を巻いた。
扱いが荒ら過ぎた
思いどおりにならないモノが、まだこの地上にあるからだ。そのことに、いら立っている。
──あの目。あの〈太母〉の目が脳裏に焼き付いて離れない。あれを消し去ろうとして荒れたのだ。
あの、ただ見つめるだけの、反吐が出そうな、やさしい目。
思い出すだけで悪寒が背筋を伝う。
あの目は危険だ。ワタシをいら立たせる……狂わす……壊す……
あと少しだった。あと少しで、あの女の細首に手が届いていた。
届いた瞬間、マッチ棒のようにへし折ってやったものを。
取り逃がした女の顔が思い浮かぶ。おのれの失態に歯噛みする。ギリギリと音をたてる。
まあ、よい。じきに、また出遭うだろう。
そんな未来が確定しているように感じる。
鋼鉄の彫像を思わせる筋肉体は、浴室を出てローブを羽織った。
黒子が
「おい、オマエ」呼びつけた。
はい──即座に直立不動の姿勢をとり黒子は応える。
「男でもよい。まだ足りぬ。相手をしろ、すぐだ」羽織ったばかりのローブを投げ捨てる。
はい。
それが運命と知り、黒子はマスクを外し、貼り付く黒スーツを脱ぎ始めた。
美丈夫だ。もっとも、美しい者しか側に置かない。
取り替えの済んでいない赤く湿った
王に命を捧げる歓び。
王――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます