第7話 卑弥呼タン、神が降りてくる
「うーん、うーん」
早めの夕ごはんを終えてから、腕を組んだまま卑弥呼はずっと唸り続けている。何か悪いものでも食べたのか? でも同じ物を食べている他の3人はなんともない。
僕の隣で卑弥呼を見ながらオロオロしている残念イケメンに聞いてみよう。
「卑弥呼様、どうしちゃったの?」
「ああ、卑弥呼ちゃ……様は、新月の夜、必ずああなっちゃうんです」
と、ヒコマロはよくわからないことを教えてくれた。
それって、月のものとかそういうこと? と口に出すのはさすがに
「ああなるって、唸り続けるってこと?」
「いえ、もうすぐ、卑弥呼様に『神』が降りてきます」
「神様ぁ?」
その後、モンローがいろいろ補足をしてくれた。
僕が出会ってからの卑弥呼は、本来の彼女の姿。明るく能天気でドジのアホっ子の卑弥呼だ。
だが新月の晩、卑弥呼の体には『神』が降りてくる。さまざまな予言を行い、信じられないほどの法術を行い、奇跡を起こすという。
「『神』が降りている間の卑弥呼様は、まさに神の化身なのです」
ほえ〜、そりゃスゲェ、としか言いようがない。なにせ俺はアホドジ能天気ツンデレロリっ子の卑弥呼しか知らないからな。
だが徐々に卑弥呼の唸り声は低くなり、ついには坐禅を組んでまったく動かなくなった。
「まもなく、卑弥呼様に『神』が降ります。ヒコマロ、警備はぬかりなく」
「はっ、命に変えても」
なんだか俺もちょっと緊張してきた。神が降りる、つまりはトランス状態になるということなのだろうか。卑弥呼はどう変わっちゃうんだろうか。神様とお話しできるって、ヤバくね?
やがて、卑弥呼の全身が薄く光を帯びたかと思うと、光の粒子が彼女を覆い始めた。光は徐々に光量を高め、そして……
卑弥呼の目がカッと開かれた。その目は、金色に輝いている。どうやら『神』が降りたらしい。可愛いけど、神々しさが加わってマジヤバいキュートさだ。
―――久しいの、
キンキンキンと金属音を帯びたような声が聞こえる。だが決して不快な音ではない。聞いているだけで天にも昇るような心地になれる、美しい声だった。
「は。勿体なきお言葉でございます」
モンローとヒコマロは平伏したまま唱和して応える。あれ、これって僕も平伏しないとダメなのかな。バレないようにゆっくり頭を下げよう。
―――そしてお主、スサノオ
「は、はひっ」
ヤバい、平伏する前に目を合わせられてしまった。卑弥呼の金色の目が、まっすぐ僕の目と対峙する。お、怒られちゃうかな? それにしても何で僕だけ、本名で呼んでもらえないんだろう。僕には
―――1800年後からやってきた未来人、スサノオ。お主には天命を与える
さす神! 俺が未来人だって知ってるんだ。でも天命って何だろう?
―――お主も知っての通り、この国はこの後、歴史の記録を失うほどの
いや、そんなこと知らんのですけど?
ん? もしかして「日本史の空白の150年」って、そういうこと? 今の文明の歴史がすべて滅びちゃうってこと?
―――滅び自体は避けられん歴史の必然。だが、この滅びに乗じ、この
なんだか、雲行きが怪しくなってきたぞ。まさかその者を倒せ、とか言わないだろうな? そんなの無理に決まってるっちゅーねん。
―――その者たちは、大陸の大国『呉』と『蜀』の者。そして彼の国の法術使いどもだ
いやいや、スケールが大きくなって参りましたな?
―――その者たちを打ち破り、卑弥呼の国づくりを助けるのがスサノオ、そなたの天命だ
ええええ? やっぱり倒すってことですかい?
―――そなたにも、法術を与える。心して使うが良い
えっ、今なんて言った? と聞き返そうとした時、神が乗り移った卑弥呼は右の手の平を僕に向けた。
その手の平から紫色の閃光が光り、僕の体全体を覆い尽くす。
ドクン。
いま入った。何かが僕の体に入りましたよ。何が入ったんでしょう?
―――使い方を誤ると、
物騒なセリフを言ったのち、卑弥呼は金色の目を閉じる。周囲を覆っていた金の粒子が徐々に薄くなり……卑弥呼は前のめりに地面に倒れ伏した。
すごい神様。一回もギャグなし、シリアスのみで押し切ったよ。さす神、と言っておこう。
あれ? でも俺が神様からもらった法術、でいいのかな? これってどうやって使うんだろう?
「ねえモンローさん、法術ってどう使うの?」
「そんなこと、私が存じ上げるはずはございませんよ」
隣ではブンブンとヒコマロも首を振っている。まあ、卑弥呼に聞くしかないわな。
「ねえ、卑弥呼様起こしてもいい?」
「起こすのを試すのは構いませんが、きっと3日は起きませんよ?」
「へ?」
「神が降りた巫女は体力の全てを奪われてしまうので、いつも3日ほどは目が覚めませんですの。ですからその間、クナの兵士に攫われないよう、お守りしないと」
ああ、久里姫が率いるクナね。まあそうだわな。
でも、そんな時に限ってピンチって訪れるものなんだよね。
「ホォーッホッホッホ、ヤマタイのちんちくりん
はい来た久里姫。
卑弥呼タン、このままだと僕、奪われちゃうよ?
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