010. 姉ちゃんとスマホ

 高校生になって姉ちゃんの弁当以外に俺の分も作ることになった。

 今までは学校給食があったので姉ちゃんの弁当だけを作っていた。ただし、姉ちゃんが社長秘書を仕事にしているから出張で会社の外に出ることもある。週の半分は弁当がいらなかったりしているので姉ちゃんのスケジュールは一週間ごとに教えてもらっていた。

 予定が急に変更になってしまった時には忘れないようにスマホのスケジュール管理を俺のスマホと共有させてすぐに判るようになっていた。

 偶に姉ちゃんがメモ代わりにスケジュールに意味の分からない言葉が入っていたが俺には読めなかった。

 仕事中になってしまうだろうからその場で質問はできず家に帰って来てから姉ちゃんにスマホを見せて聞いてもその画面を見て誤魔化されてしまう。

 そんな姉ちゃんを見ているとその顔は仕事をしている時の顔や俺のことを褒めて顔の筋肉が緩んでいる時とまた違った顔だったことに気づいた。

 でもそれが何かの邪魔になることでもなかったからそれ以上聞くことを諦めた。

 というより頭の片隅に弾かれていたのだと思う。


 その後姉ちゃんは俺のことを警戒したのか姉ちゃんのスマホのスケジュールにはあまりその文字は出てこなくなっていた。

 毎日姉ちゃんを見ていると何かがあるようには見えなくていつもよりマジマジと姉ちゃんのことを見てしまっていたようだ。


「叶羽~、何?そんなにジロジロ見ないで~」

「…別に、ジロジロなんて見てない…」

 いや、本当は姉ちゃんの口から真実を言って欲しいとも思っていたから。


「ふーん…」

 ニヤリと姉ちゃんが笑った。

 上から下までじっくり見つめられた。

 何もかも見透かされている気がして姉ちゃんと目を合わせないように下を向いた。

 なかなか俺から話が聞けない。

 プライベートなことでそれが恋愛関係の話ってなると俺自身も姉ちゃんに話したり、相談したりするなんて恥ずかしすぎてやっぱりできない。


「姉ちゃんの方こそ俺のことをジロジロ見過ぎだろ?」

「ん~?だって~。叶羽、あんた私に何か聞きたいんじゃないの~?」

「えっ?!」

 姉ちゃんに図星を指されて一瞬、驚いた。


「はぁ~」

 俺は溜息をいた。


「なになに~?姉さんにも言えないことなの?!」

「そ、そういうわけじゃ、ない…けど」

「それじゃ~、言えるわよね~?さぁ叶羽~、白状しなさい?」

「う、あ、え」

「何キョドってんの~?さぁさぁ」

 姉ちゃんがニヤニヤしながら左肘で俺の腹辺りをグリグリとしてきた。


「そ、それじゃぁ聞くけど…」

 俺はスマホをポケットから出しスケジュールの画面を出した。前のスケジュールも姉ちゃんから変更連絡がない限り消去することもなかったから、その文字が書かれているところを表示して姉ちゃんに見せた。


「前に一度姉ちゃんに聞いたけどはぐらかされたからずっとわからなくてモヤモヤしてたから。このスケジュール表に使っている文字って何?」

「あぁ~、それね~。その文字は“ハングル文字”っていうの~。韓国語を字で書くとそうなるの。でもね~、これは韓国語じゃなくて日本のひらがなをハングル文字に置き換えたらこうなるの~。だからと言って細かく何が書いてあるかは教えないけど~」

 あれが何なのかは判ったけれど知らない言葉なのは変わりがなかった。


 姉ちゃんは俺の前では何故か間延びした話し方をしてちょっと見た感じはボーッとした少しドジな女性に見えるかもしれない。

 けれど姉ちゃんは高校・大学に通っている時に語学を勉強していた。

 今は英語以外にロシア語にフランス語、ドイツ語を話せるらしくどうやら現在は韓国語を習得中のようだ。

 俺にも外国語を好きになるようにいろいろとやっていた。

 それが嫌だったか?と聞かれるとそれはない。

 俺も姉ちゃんと同じで勉強するのは好きだったからだ。

 そういうこともあって姉ちゃんは秘書をやっているようだ。

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