006. 高校入学式
俺は姉ちゃんと相談していたように高校に入学することができたが望んでいたようなものではなかったことが少し不満だった。
俺が望んだことは陸哉と葵とは別の高校に行くことだった。
それでもクラスだけでも別だったらよかったのに…と高校の入学式が始まる前に受付でクラス名簿を確認した。
名簿にクラスごとに並ぶ名前を何度も見てしまった。
見直しても名前の位置は変わらなかった。
いつもと変わらずいつものように俺は溜息を
保護者である姉ちゃんとは別行動だったからエントランスで別れた。
姉ちゃんは受付で直接体育館へ向かうように案内され、誰かと連絡しているのかスマホを確認しながらゆっくりと歩いて行った。
姉ちゃんの後ろ姿を確認してもう一度名簿を見てクラスを見て教室へ向かった。
教室の扉を開けて中を見渡すとホワイトボードには座席表が貼られていた。
“座席表に書かれた席に座って待つこと”
(小学生じゃあるまいし…)
座席表と自分の席を確かめ着席した。
廊下側の席で俺よりも早く来た生徒が座っているのが見えた。
「よう!俺の名前は
「あぁ、よろしく。俺の名前は
「あっ、俺も俺も!
席で待つ間に自己紹介が始まり和やかに会話をしていた。
ちらりとホワイトボードを眺めると出席番号のおかげで陸哉と葵の席は離れていたことに少し安心した。
「僕の名前は
隣同士の席で話がどんどん広がっていく。
久しぶりに陸哉と葵以外の人たちと話した。
なんとなく気軽に話せる友だちになりそうだ。
「もう少しで時間かな?入学式ってなんか眠くなりそうだな」
「だからって寝るなよ?真太郎って呼んでいいか?」
「おう!俺も皆を名前で呼ぶぞ」
「オケイ。俺もそれでいいよ」
中学校が違う者同士だったが楽しく話せた。
そういう時は時間が過ぎるのが早かった。
クラス担任らしき人が教室に入ってきた。
「これから体育館で入学式が行われる。出席番号順に二列に並んで移動してください。体育館の中に入ったら前の方にクラスごとに席に座っていくように」
廊下に出るように促されてゾロゾロと歩いていく。
「行かねぇの?」
「あー、うん。ゆっくり行くつもりだった。真太郎はせっかちだ」
真太郎に話しながら席から立ち上がった。
陸哉と葵のことが少し気になり教室を出ようとしているのを見た。
いつもと変わらない無表情で教室の入り口を見た。
陸哉と葵がこちら気にするようにしてきた。
陸哉は睨みつけている感じがしたが俺は何となくその様子に気がついていないふりをした。
「叶羽ー、そろそろ廊下に出ようぜ。もう俺らが最後みたいだ」
「あぁ…、行こう」
クラス全員が並んだことを確認すると担任は前を向き右手を高く挙げた。
それを合図に体育館へ向かって歩き出した。
二列に並ぶと俺は真太郎と隣だった。
教室にいる間はずっと話していたけれどさすがにおしゃべりはせずに静かに歩いた。
体育館の中に入ると舞台に近い席は空いていて、後ろ側に保護者らしき人たちが座っていた。
姉ちゃんが座っている場所を探した。
姉ちゃんを見つけると姉ちゃんの隣にはよく見知った顔の男性が座っていた。
(なぜあの人が姉ちゃんと高校の入学式にいるんだろ…?)
高校には
席に座ると入学式が始まり祝辞だとか、どこかの偉い人の話とか進んでいくけれど何を言われているのか半分以上は聞き流しているから解っていない。
コロナが流行してから、入学式や卒業式のような行事がかなり変わった。
式には在校生が参加しなくなって保護者と学校関係者と招待客が二、三人だった。
体育館の広さがとても大きく見えた。
新入生の俺たちが先に体育館を出て教室に戻った。
明日からの予定とかその他の説明などがあるんだろうなと思った。
全員が席に座ると男性が一人、教卓の前に立った。
「このクラスの担任となった
爽快に挨拶をした。
「そして、だ。このクラスの一員となった皆には明日からのホームルームで自己紹介をしてもらうから。何を話すか十分に考えてきてくれ」
石川先生はクラス全体を見渡しながら言った。
「授業が本格的に始めるのは来週からでそれまでは入学して早々だが実力テストがあるからあまりのんびりしてるなよ、勉強はしておけ」
ニヤリと笑った。
「あっ、それから…うちの学校は部活動に義務はない。入部したくない者は無理に所属する必要はない。だから部活動をやりたい者は入部届の用紙は直接俺のところに個人で取りに来てくれよ」
さっきまで静かだった廊下に足音が聞こえた。
「ん?そろそろ終了時間かな…、この学校の授業開始時刻は八時四十分、その十分前には朝礼がある。朝礼と言っても教室で朝、出欠確認することと連絡事項があればこの時間に伝えることになるからこの時教室にいなかったら遅刻になるからな。忘れるなよ~。といったところで今日は終了だ、解散な」
サクッと軽く重要なことを言ったような気がした。
担任から配布されたプリントをファイルに挟み鞄に入れた。
少しずつ教室から出ていく生徒を担任は見守っていた。
俺のところに真太郎と洸太が寄ってきた。
「明日からもよろしくな!」
「明日は一緒に昼飯を食べようぜ」
女子高校生みたいな会話で約束をしていた。
「俺も仲間に入れてくれ」
「俺も一緒にお願いします」
真太郎と悠生が顔を見合わせもう一度俺の顔を見た。
「同級生の友だちに敬語を使わないだろ、普通?」
「そうか?あまり友だちいなかったから話し慣れてなくて…」
「まぁまぁ、それはそのうち改善されてくんじゃねぇ?」
「真太郎は砕け過ぎたしゃべりだけどな」
席を近くした者たちで話していると陸哉と葵が横を通りながら見ていた。
「何?知っている奴?」
「あ、あぁ。二人とも俺と同じ
「また敬語…」
クスクス笑いながら洸太が指摘してきた。
「ほらほら、帰る準備ができたなら帰ろうな。保護者の皆さんが待っているぞ」
最後まで教室に残っていた俺たちは担任に催促された。
なんとなく俺の様子を見た真太郎が俺を守るように廊下へ向かって歩き出した。
「…真太郎」
「まぁ…、なんとなく?」
真太郎は俺の肩に手を置いた。
「さあ、行こう」
「ははは…」
真太郎のさり気ない言葉に俺は苦笑いをしてしまった。
俺も真太郎に促されて廊下に出た。
廊下にはそれぞれ保護者がいたみたいだ。
「じゃぁ、明日な」
「おう」
「俺ももう行くよ、待っていてくれているみたいだし」
「うん、また明日」
俺も姉ちゃんの姿を探した。
姉ちゃんはすぐに見つけたけれど入学式で姉ちゃんの隣に座っていた男性はいなかった。
「姉ちゃん、お待たせ。帰ろう」
「うん、お待たせされました~。お昼はどうするか~…この後姉さんは仕事があるから会社戻るけど~…」
「俺はこの後の予定ないけど家には帰りたくない」
「うん、まぁそうだよね~。それじゃぁ一緒に行く?」
「そうしたい…」
「そのまま会社で仕事が終わったら夕食はお祝いしよう~」
姉ちゃんの和やか、というかおっとりした話し方でほんのりと穏やかな気持ちになった。
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