光と闇の戦士たち(3)
グワシィィィィィィィン!
巨大な幻影が音を立てて、割れた鏡のように砕け散る。続けざまに左右の前肢が虚空を薙げば、長大な真空波がマルスとあたしのパーティーを襲った。
「うおおおおおおおおおおおおッ!」
おっさんがプリシラをかばって攻撃を二度受ける。すぐに体力は無くなり、また瀕死状態になってしまった。
「ありがとうガルラス、すぐに回復を……」
早口で唱えられる回復魔法。
あっちには回復役がいてくれるから大丈夫かもしれない。けれど、こっちのパーティーは、ダイラーに頼ってしまうと彼の真価が発揮出来ない。かといって、あたしの回復魔法は初歩レベル、焼け石に水程度だ。
「おまえたち、体力がヤバくなってもオレをあてにするなよ……オレは、自分の得意技にたっぷりと魔力を使いたいからな」
「フッ、はじめからあてにはしていない。そっちこそ先に倒れるなよ」
「ちょっと、ふたりとも……!」
ダイラーとミメシスが、また険悪な雰囲気になりかかってる。
でも、回復アイテムはなにも持ってはいないし、これ以上ダメージを受けてしまうと、プリシラの負担が多過ぎて勝てる相手にも勝てなくなってしまう。いったいどうすれば──。
パチン……パチパチパチパチ……!
「えっ? なになに?」
ダ=ズールの口が左右に開いてゆく。大気中の
「クソッたれ!」
ダイラーが飛ぶ!
『
シャシャシャシャシャーン!!
シャシャシャシャシャーン!!
解き放たれる無数の氷の斬撃。
大きく開けられた口内を的確に連発で狙い撃つ。
けれど──攻撃を止めるまでには至らなかった。
『
あたしたちは耐えた。
マルスたちも今回は耐え抜いた。
それでも、光と闇の戦士たちは、全員が瀕死状態になってしまった。
プリシラがこっちを気にしていたので、あたしは力の限り大声で叫んだ。
「あたしたちは大丈夫だから、プリシラはマルスたちを回復して!!」
「う、うん! ロアもがんばって!」
本当は全然大丈夫なんかじゃないし、がんばれない。
だけど、別パーティーのあたしたちまで回復していたら、プリシラの魔力がすぐに無くなってしまう。
それは、みんなの死を意味していた。
三回死んだあたしたちは、次こそ死ねばそれまでだ。転生なんてありえない、永遠の死──魂は無へと還る。
(本当にどうしたらいいのよ……ダイラーはまだ動けないし、あたしの回復魔法じゃ話にならないし……)
と、そのときだ。
あたしは、
「そうだ……そうよ……アレがあるじゃない! この中にまだ、アレがあるはず……!」
ウエストポーチを漁って、ボロボロの御守りをひとつ取り出す。
これは、メイドのセーリャが旅の餞別としてくれたものだ。
もしも本当に辛くて挫けそうになったら、そのときにこれを使ってください──そう涙ながらに言って、贈ってくれた御守り。すでにボロボロなのは、セーリャの
今までなんとか頑張ってこれたけど、今回ばかりはもうどうしようもない。あたしは、念じられるだけ強く念じて、御守りを天高くぶん投げた。
「お願いセーリャ、あたしたちを助けて!」
シュルルルルルル……………………ピカーッ……!
虚空を高速回転するボロボロの御守りから、まばゆいばかりの青白い光線がいくつも放たれる。やがてそれは、暗雲の空いっぱいに広がっていき、超巨大な魔法陣を
「あれって……召喚魔法?」
「むうっ……あの図柄は……天界の者か?」
ダイラーが言うように、あれは天使たちを司る光の使徒の図柄によく似ていた。つまり、聖なる力を持つ大天使が召喚される可能性が極めて高い。
「やった! ありがとう、セーリャ!……って、あらっ?」
突然、上空の魔法陣が反転して上下逆さにもなる。こんな図柄、見たことも無いんですけど!?
「あれは……
あたしのとなりで、ミメシスが苦しそうにつぶやいた。
「堕天て…………えっえっ? 結局、どんな召喚獣が出てくるのよ!?」
ゴゴゴゴゴ……ゴゴゴゴゴ……!
奇っ怪な紋様の中心にある巨大な魔法円の中から、背中の右側にだけ黒い翼をもつひとりの人物が現れる!
そして、あの見覚えがあるメイド服と笑顔は──。
「いやーん、もうー! 遅いっ! ロアお嬢様ったら、がんばり屋さんだから、全然呼んでくださらないんだもーん! プンプン!」
わが家のメイドであり無二の親友でもある、セーリャだ!!
「えっ!? 本当にセーリャなの?」
「もちろんでこざいます……ぴとっ♡」
片腕に片乳をこすりつけながら抱きついてくるこの仕草、間違いなく御本人様だ。
「ロア、知り合いなのか?」
「あら? トカゲ野郎の分際で、ロアお嬢様を呼び捨てにするなんて……死にたいのかよ、てめぇ?」
にっこりと笑顔で威嚇するこの
「おまえは、冥界の……」
「おっと! それ以上は、すとーっぷ♡」
「ん?!」
セーリャが、なにかを言いかけたミメシスの唇を右手の人差し指だけで制止する。ミメシスはなにかを知っているのかな?
「ねえ、セーリャ……あなたっていったい……」
「わたくしはわたくし、単なるロアお嬢様の愛玩動物です……ポッ♡」
「やめて、マジで! 知らない人が聞いたら、そんな関係なんだって誤解しまくるから、マジでやめて!」
「ウフフ、とりあえず……チュッ♡♡」
「なんでキスしたの!? なんで今このタイミングでほっぺにキスしたのかな!?」
とにかくなぜか、四人目の仲間として、メイドのセーリャがあたしたちのパーティーに加わった。
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