第一級の賢聖士

松木 希江琉

第一章 時止めりの教室 

第1話 ある日の空き部室

せい!青‼ 何が起きた⁉ どこに行ったんだ⁉」


友だちの高志たかしは必死に青の名前を叫び続けていた------。




僕は創立107年の伝統ある進学高校の1年。


その高校の進学先というと上は東大、下は就職、とかなり学力に差がある高校だ。


中3の時に担任の先生に「君ならもっと上の高校が狙えるよ、前生徒会長君。」と言われたけれど、父が同じ地区の工業高校を卒業していたのでなんとなくここに決めてしまった。


 部活は中学時の先輩からの一声もあってバレー部に入部したものの、初日にネットの高さを見て唖然。たった10㎝の差が自分と富士山ぐらいに感じた。スパイクを打つも必ずネットをかすり、トスを上げるもなかなか思った高さに届かない。優しい先輩たちに励まされつつ、そこそこ頑張ってはみたものの173㎝の僕が190㎝台の先輩たちには到底及ばず、入部してから2か月で退部届を…。顧問の先生は「いいよ。」の一言だけ。


ちょっと寂しかったなぁ。


 そのあとはしばらく帰宅部に所属。文武両道を謳い文句にしている高校だったから、合格が決まったときは勉強も部活も楽しむぞ!と息巻いていたのが遠い昔のようだった。


 友達はクラスメートを中心に数人できた。その友達の1人、斉藤さいとう 高志たかしとは特に話が合って、学校が終わってもしばらく教室や誰も使っていない部室でたわいもない話をしたり、カレーやパスタの美味しい喫茶店巡りなんてこともした。


 高志はカレーが大好きで、特に辛いカレー、スプーン一杯で唇が明太子のようになってしまうカレーを好んで食べていた。そのせいかどうかはわからないけど、僕より身長が少しだけ低いけれど細身で、顔も女の子受けしそうな容姿だった。


 そんな生活を繰り返すうちにあっという間に1年が過ぎようとしていた。


 ある日の午前の授業終了後、いつもの誰も使っていない部室に高志と行き、購買で買ったボリュームたっぷりのスパゲティーパンと卵が溢れ落ちそうなサンドイッチを食べながら話していると、高志が校内放送ですぐに職員室に来るよう呼ばれた。特に悪いことはしていないし成績も赤点はない。なんだろう、と首をかしげながら高志は部室を出て行った。


 残された僕はゆっくりサンドイッチを食べ、高志が戻ってくるのを待っていた。が、食べ終わってからもまだ戻ってこなかった。


 どうしたんだろう…と思いながら椅子の背もたれに寄りかかり、後ろに30度傾けた状態で腕を頭に組もうとした瞬間、視界が90度回転し、背中に激痛が走った。


滑った。


でも頭は右腕でカバーしたので何が起きたかはすぐに分かった。


立ち上がろうとしたその時、いつもは気にしない棚の中にやけに古臭い、表紙が茶色に色焼けしていて、消毒液の香りがしそうな色褪せた表紙の本が1冊だけうっすらと青白く光って見えた。


やっぱり頭も打ったのかな、と思いながら椅子を元に戻した。座る前にもう一度その本の場所を見るとやはり光っていた。まるで手に取ってくれ、開いてくれと言わんばかりに。


椅子の背もたれを持ちながらその本を手に取ってみた。まだ光っていた。表紙には縦書きで


「中等教育化学教科書」


とあった。どうやらその字体から大正時代に出版されたものらしい。まぁもともとその時代に開校されたのだから1冊ぐらいあってもおかしくはない。


開こうとすると5㎝四方ぐらいのノートの切れ端のようなものが落ちた。


拾い上げるとその切れ端にはぎっしりと化学式のようなものが書かれていた。


化学は履修しているけれど、あまりにも複雑で意味不明…。


と思った瞬間その化学式が眩い閃光を放ったと同時に、僕は机にひれ伏し、意識はなくなっていた。

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