第38話 やはりマナが?

 女性三人の気を使いながら山を下りて街道を行くことにしたのだが。


「歩けないものはいるか?」


 その問いには三人とも手を挙げた。

 ロクに飯も与えられていなかったようで、歩く体力がないのだ。


 俺はため息をつきながらどうするかを考える。

 三人背負うと、サーヤも背負わなければならない。

 かといって置いていくわけにもいかないしな。


「ワタシ、一番小さい人なら背負えますよ?」


 サーヤがそう進言してきた。

 本当にそうであれば助かるが。


「本当か?」

 

「身体強化を使いますから」

 

「魔力は大丈夫か?」

 

「ワタシ何もしてませんもん!」


 サーヤがそういうのならいいか。


「じゃあ、それぞれおぶるか」


 俺は一番背の高い人を運ぶことにし、次に高い人はヤマトが、一番小さい人をサーヤがおんぶする。


 それぞれ身体強化をして早歩きで街へと向かう。

 魔力が切れる前につかなければいけないからだ。


 そこで文句を言い始めたのはヤマトだ。


「俺様、具合が悪いんだが?」

「……すみません」

 女性が謝っているのを見かねて口を出した。


「じゃあ、俺が二人を肩に乗せて運ぶか。ヤマト、お前はもう着いてこなくて──」

「──おい。早く乗りなさい? 俺様元気100%だから!」


 まったくアイツは仕方のない奴だ。

 そもそも具合が悪いのは自分が飲みすぎだんだろうが。自業自得だ馬鹿者。


 ヤマトも女性を背負い、歩き出す。それをみてサーヤと俺も歩き出した。


 歩くのは先ほどの地獄を味わったこともあるのだろうけど、無言の時間であった。


 気まずいなぁと思っている時。そういう時って背中に意識が集中してしまうもので。


 後ろに背負っている女性の柔らかいの弾力が歩くたびに伝わってくる。このままではまずい。ひどいことをされていた女性をつれているのにこんなことを考えているなんて、あってはならん。


「ししょー?」


 いつの間にか横から俺の顔を見ていたサーヤが目を細めてこちらを見ている。


「後ろの女性、大きいですけど重くないですか?」


 何を失礼なことを言っているのだコイツは。たしかに背も胸に実っているものも大きいが。


「失礼だぞ! サーヤ! 何を言っているんだ! 身体強化してるんだから重いわけがないだろう?」


「へぇー? がんぱっているわけじゃないのになんで顔が赤いんですかぁ?」


 コイツ……確信犯だな。俺を貶めようとしている。はかったな。


 だが、これは仕方がないのだ。勘弁してほしい。この恰好じゃないと運ぶのしんどいし。サーヤは冷たい目をしている。


「私は、気にしません。命を助けていただいたんですから」


 後ろの女性がボソッと耳元で呟いた。

 なんか申し訳ないんだが。

 俺は別にやましい気持ちな訳では……。


「そもそも、おじ様はなぜ私たちを助けてくれたんです?」


「あぁ、実は俺の娘がいたんじゃないかと思ったんだ。そしたら居なかったからな」


「何人かは本部と言われるところに連れていかれたみたいですよ?」


 それは頭になかった。あの盗賊たちがそんなに大きな組織だったとは。だとすると、マナがいた可能性もある。


 マナの特徴を伝えると知っているかもしれないと言う。それを聞いて心臓が早まる。マナが捕まっているかもしれない。


「本部ってどこかわかるか?」


「んー。なかなか海は渡れないってグチグチ言ってましたよ?」


 それならこっちの大陸にいるのかもしれない。どこにいるか。それよりホントにマナが捕まっているとするとどうやって?


 マナは言っちゃなんだが、かなり戦いは強い方だと思う。そんじょそこらの奴に負けるわけはないと思うのだがな。


「やっぱり心配ですか?」


 顔が変だったのだろう。そんなことを問いかけてきた。


 それより、心配と言うよりは謎が深まった。なぜ捕まる? あれだけのじゃじゃ馬をどうやって拘束した?


「そのな。捕まるはずはないと思ってしまってな」


「たしか、ゴクマンの首輪? だかなんだかをつけたみたいで、その人、目が虚ろでしたよ?」


 ゴクマンの首輪? 聞いたことがないな。

 一体どんな効果がある首輪なんだか。

 ゴクマン?……ゴク?……もしかして。


「なぁ、もしかして傲慢の首輪じゃないか?」


「あぁ! そうかもしれません!」


「なるほどな」


 傲慢の首輪ならありえる。なんでも言うことをきかせることができる首輪だったはずだ。七大罪具ナイトールの中でもタチの悪いもの。


 あれが盗賊の中で出回っているとはな。物騒な世の中になったものだ。しかも、それがマナの首にはまっているとなると一大事だな。


 あの首輪は対になる鍵があったはず。それを誰が持っているんだか。さっきのアジトには無かった。みんなが去った後に隅々まで確認したからな。


 ということは、その本部の人間が持っていると思っていいだろう。

 まず、次の街でこの人たちを保護してもらう。 その後は情報収集といこうか。


「ししょー? どうしたんですか?」


「それがな、やはりマナは奴らに捕らわれているようなんだ」


「えぇ!? そうなんですか!?」


「奴らの本拠地を探しに行く」


 俺たちはこれから大きな組織を追う。

 まずは情報を集めないとな。

 急がないと。

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