第36話 襲われ待ち
「あーーー。頭いてぇ」
「飲みすぎだ。馬鹿者」
青い顔で頭を押さえながらフラフラと歩くヤマト。
昨日調子に乗って飲んだのがいけなかったのだろう。まったく。今日立つと言っていたのに。
コイツは今日、戦力にならんな。
「ししょー? ヤマトさんこんなんで大丈夫ですかねぇ?」
「しょうがないだろう。盗賊にマナが捕まるとも思えないが、万が一があるからな。早い方がいいだろう」
意気込んで街を後にした。
目の前に広がる景色は山々がそびえ立つ山岳地帯。
この先は海まで谷を歩いていくのが定石。
その地形は襲われやすい地形だ。
以前通った時も盗賊に襲われたが、撃退した。
当時の反省を活かしたいと考えている。
「絶対守ってくださいよ?」
「あぁ。そのつもりだ。抵抗はしろよ?」
「そりゃしますよ。盗賊に攫われたくないですもの」
サーヤはふくれっ面をしてついてくる。
後ろからはヤマトがダラダラとついてきていた。
「盗賊なんでめんどくせぇから暴食で飲んでいこうぜ?」
「いや、根元を絶たないとダメだ。万が一マナがさらわれていたら」
「確率はかなり低いけどなぁ?」
確率は低いがそれでも万が一があると思うとあまり楽観視はできない。
「しかし……」
「わぁってるって」
ヤマトはグチグチ言いながらも俺がやりたいことはわかっているようだ。
最悪の場合は、盗賊が全滅するまで狩るつもりだ。
両脇の山々はセリ立っている部分もあって視界が悪い。
何が悪いのかというと、潜んでいる敵が見つけづらいのだ。
「ししょー? これって、襲われるの待つんですかぁ?」
「たしかにそうだよなぁ? わざわざ襲われるのを待つのもおかしいよなぁ? こっちが見つけたいのによぉ!」
サーヤの問いに賛同しているヤマト。そういうノリはやめてほしいものだ。
そりゃ探したいが、襲われるのを待つのが早いだろう。片っ端から山を登るのは効率が悪い。
「効率を考えたら襲われた方が早いだろ」
「そーですけど、一撃目がヤバいの来たらどうするんですか?」
「それはヤマトの腕の見せ所だろ? なぁ?」
ヤマトに目を巡らせると肩を上げて呆れているようだった。守るのはヤマトの専売特許だ。
自分のできないことは仲間に補ってもらう。そうやって俺は生きてきたんだ。折角ついてきたのだし。
日が少し高くなってきた。
西側の山は灯に照らされていく。だが、それゆえにセリ立っているところは影になっていて余計に人がいてもわかりにくい。
「そろそろ警戒した方が良いかもな。道が狭まってる」
上からの奇襲が受けやすい地形になっているところがある。
そこは中心的に警戒した方が良いだろう。
サーヤの顔が強張っている。
警戒しているのだろう。
それが盗賊にばれなければいいのだが。
狭くなっているエリアを通り過ぎる。
頭上を警戒しているが何も起きない。
「はぁぁ。何もおきなかっ──」
──ドサッ
何かが落ちる音が聞こえた。
聞こえたのは。
「ヤマト!」
「わぁってる!」
後ろに結界を張る。
金属の弾かれるような音が響きわたる。
弾かれて地面へ転がったのはナイフだ。
投げたやつは頭を布でぐるぐるに巻き、目だけが露わになっている。
その後ろにももう一人。
そいつはナイフが弾かれるや否や、剣を抜いて距離を詰めてきた。
身体強化の方に魔力を巡らせる。
湾曲した剣が振られる。
「おっ!」
予想外に鋭い一閃で驚きの声を上げてしまう。
「ちっ!」
舌打ちしながらナイフを投げてくる。
この程度でやられるほどヤワではない。
拳でナイフを弾き盗賊に肉薄する。
盗賊のわりにはやるようだが、あまい。
剣で牽制してくるのを腰を落として避ける。
アッパーカットで下あごをかち上げ。
置くいた最初にナイフを投げたやつへも肉薄する。
「ちぃっ!」
ナイフで応戦してくる。
頭を振って避け、のけ反ってかわし。
勢いをつけて。
頭突きをかます。
「がぁぁ!」
盗賊は後ろへ倒れこんだ。
「ししょー! アクアショット!」
後ろを振り返ると進んでいた方向からも敵が迫っていた。
サーヤも魔法を放つが避けられる。
ヤマトは結界を張っているが、初動を見られていたので対策をされているようだ。
冷静によけながら迫る盗賊。
この距離からだと間に合わない。
腕輪に魔力を注入し、赤黒の煙を拳の前へ滞空させる。
盗賊へ狙いを定めて人差し指立ててを引き絞る。
「
一点へ集中した力を放つ。
盗賊の頭に急に穴が開き血を流して倒れる。
気が付くと先ほどの殴り倒した二人は山へと逃げていくところだった。
俺はゆっくりと歩いて後を追う。
もともと生かしておくつもりだった。
なにせ、殺してしまってはアジトがわからないからな。
「おーこわっ!」
だるそうにしていたヤマトが笑う。
対してサーヤは顔を青くしている。
人の死ぬところを見るのが嫌だったのかもしれない。
それは悪いことした。
だが、これからはそうもいっていられない。
「サーヤ。待っていてもいいぞ? 待つならヤマトを置いていく」
「……大丈夫です。連れて行ってください!」
「ひどい現場を見るかもしれないぞ?」
盗賊のアジトと言えばひどい有様なのが当たり前だ。
見たくないようなものを見なければいけなくなる。
「行きます!」
サーヤは覚悟を決めたようだ。
それならば連れて行こう。
盗賊のアジトは地獄と化す。
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