第20話 迷いの森

 抜け穴を抜けた先には陽の光が差し込む森が広がっていた。草花の匂いを感じながら深呼吸をした。


「ふぅぅぅ。洞窟よりは外の方が空気が美味いな」

 

「あぁ? そうかぁ?」


 ヤマトはそもそも、谷の暗いジメジメしていたところにいたからこういう気持ちはわからないだろう。


「んーー! 気持ちいいですねぇ!」

 

「ただ、ここはもう迷いの森だ。この先は迷うかもしれないから付いてくるんだぞ?」

 

「わかりました!」

 

 気合を入れたサーヤをつれて森の中へと進んでいく。この森は方向が分からなくなるくらい等間隔に木がある。


 だから、方向も分からなければさっき通った道かも分からないのだ。もちろん、印をつけて進むことも出来る。


 それをすると、知らない間にまた印がついたところに戻っているのだ。


「あぁ。もう迷ったな」

 

「えぇっ!? ししょー? 大丈夫なんですか?」

 

「んー。わからんが……」


 随分後ろが静かだと思い後ろを振り返るとヤマトが居ない。


「アイツ……はぐれたな?」

 

「あれ!? ヤマトさんがいないですよー!」

 

「大丈夫だ。すぐにその辺から出てくる」

 

「そんなー!」


 ヤマトはこの森に嫌われているんだ。こうやって迷った時に……。


 ──バキバキッボキッメリメリメリッ


 すぐ横がガバッと開けた。


「あぁ。いたいたぁ。いやぁ迷って困ったぜぇ」

 

「ヤマトさん、どっから来たんですか!?」

 

「そりゃあ……わからんさ」


 こうやって森を食ってしまうからこの森から嫌われているのだ。こうなると決まって迎えが来る。


「あー! またあなた達ー!? 森を壊すのは止めてくださいよー!」


 現れたのは小さな妖精だ。

 クルクルと回りながら口を膨らませて怒っている。


 金色の髪を後ろでまとめ、可愛らしい顔をしてドレスを着ている。


「すまんな。コイツが迷ってまた森を食っちまった」

 

「もー! 森を壊すのはあなた達だけよー!? ……あっ! 何年か前にも女の子が森を焼いたわ! それはどうでもいいけど、止めてちょうだい!」

 

「いつも悪いな。それで、出口まで連れてってくれるか?」

 

「仕方ないわねぇ」


 目を釣りあげて怒りをあらわにしながらも案内してくれるようだ。


「こっちよ。ついてきて?」


 羽根を広げて飛んでいくその後を早足でついて行く。けっこうなスピードで飛ぶのだ。


 サーヤが後ろから小声で声をかけてきた。

 

「ししょー? この子何なんですか?」

 

「この子はこの森を管理している妖精だ。人を迷わせてはイタズラをしている」

 

「えぇ? 性格悪くないですか?」

 

「はははっ。でもな、少しイタズラしたら本来の道に連れていってくれるんだ」

 

「へぇぇ。なんでイタズラなんか」


 サーヤがそう呟くと前にいた妖精がこちらを向いて笑った。


「あのねぇ。私達は長く生きてて暇なの。イタズラは暇つぶし。別に森の出口まで案内してあげるんだから、それぐらいはいいでしょ?」

 

「いやいや、良くないですよね?」

 

「じゃあ、一生迷うの? 昔は私のことを攻撃してきて、放っておいた人もいたわぁ。ただ、その人は餓死したわ」


 サーヤはブルッと震えた。


「えぇ。恐っ!」

 

「恐いよなぁ。だから、この子には友好的にしておいた方がいいぞ?」


 忠告するように言うとコクコクと頭を上下に振っていた。余程、恐かったのだろう。俺もその話を聞いた時は血の気が引いたものだ。


 ヤマトなんてアーティファクトで食いそうになったんだからな。あの時、止めた自分を褒めたのを覚えている。


「ふふーん! 私に逆らわない事ね!」

 

「逆らわないから出口まで頼むぞ?」

 

「分かってるわよ! それより、あなたちょっと前に来た女の子に似ているわね?」


 妖精のちょっと前というのは三、四年前も入るのだろうか。


「もしかしたら、俺の娘かもしれないな」

 

「へぇぇ。あなたと同じでこの森に来たのね」

 

「あぁ。この森に入るように伝えたのは俺だ。だが、少しのイタズラに我慢すればいいと伝えたはずなのだが、すまないな」


 素直に妖精に謝ると目を見開いてこちらを見ている。


「あなた、娘とかいたのね?」

 

「もうここに来たのはだいぶ昔になるからな」

 

「そう。あなた達からすればそうでしょうね。私からすると、ちょっと前のできごとって感じなのよねぇ。そう言われれば、歳とったわね?」

 

「それはそうだ。もういい歳した親父だよ」

 

「妖精は歳を取らないからねぇ。あっ、そろそろ着くわよ?」


 妖精は優しく出口に案内してくれると得意げに腰に手を当てて胸を張った。


「どう? 着いたでしょ?」

 

「あぁ、ありがとう。それで、その娘のことなんだがな、このまま東に抜けたのか?」

 

「そうみたいよ? たしかオングに行くと言っていたわ」

 

「わかった。行ってみるよ。助かった」

 

「いいのよ。またね!」


 陽性はそう言うと森の中へと帰って行った。次はオングの街に向かったようだ。そっちへ向かって歩き始める。


「ヤマトは、随分静かだったな?」

 

「あの妖精はなんだか、苦手なんだ。偉そうでな。食ってかかって機嫌を損ねたら森から出られないだろう? だから、頑張って黙っていたんだ」

 

「そういうことか。それは懸命な判断だったな」


 森を抜けると東に街並みが広がっていた。次は少し大きい街だ。

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