【2】ダンジョンクエストを受けるぞ

 ひどい目にあった……


 みんなの協力があったおかげでどうにかアリサを抑え込むことができた。指輪もどうにか外すこともできたし、これで一応一件落着かな。


「う、うぅ……レイン様、ひどい。私、こんなにあなたを求めてるのに……!」


 やめて! みんなすごい悲しい目をしているからやめて!

 というか僕が悪いことをしたような感じになってるじゃないか。何にもしてない、むしろやられちゃいそうになったからね!


「全く人騒がせですね。そういうのはこんな場所でやらないこと!」


 なんか怒り方が違うけど、アリサを受付嬢のお姉さんが説教していた。アリサはなんだかいつもと違ってシュンとしおらしく正座しながら聞いているから、まあいっか。


「いい? 男を誘うならそんなに押しちゃダメよ。いいところで引くことも覚えなさい」

「引く? そんな私、背中を見せるなんてできない!」

「そうじゃなくて、強いところはがり見せてたらダメってことよ。気を許したほしいなら自分の弱さも見せなきゃ」

「弱さ? ま、まさか……! 後ろから、そんな激しいことを……!!!」


 あれ? 会話が噛み合ってない気がする。

 うん、なんか気にしないほうがいいかも。


 ひとまずいいクエストを探そう。うーん、でもどれも条件が四人からだなぁー。


「あの……」


 どうしようかな、と考えているとまた誰かが声をかけてくる。振り返るとさっきのフードを被った白いローブの女の子がいた。

 僕が思わず顔を歪めると、彼女はこんなことを訪ね始める。


「その、指輪、渡せませんでしたか?」

「ヴァンさんに話したけど違うって言ってたよ」

「そ、そうですか。何か騒ぎがありましたけど――」

「大丈夫! どうにかなったから大丈夫だよ!」


 何が大丈夫なのかわからないけど、僕はそう答えてしまった。でも、彼女はどこか浮かない顔をしており、小さくため息をついて顔を伏せてしまう。

 ひとまず彼女に指輪を返そう。そう思っているとこんなことを訊ねてきた。


「クエスト、受けるんですか?」

「? そうだけど?」

「よかったらお手伝いします。あの、パーティーに加えてください!」


 いきなりどうしたんだろう。

 よくわからないけど、この子がパーティーに加入してくれるなら受けられるクエストの幅が広がる。


 僕達にとってもいいことだし、断る理由はない。


「いいですよ。えっと――」

「リリアと言います。あの、あの、参加させていただきありがとうございます!」

「うん、こっちもありがとうございます。リリアさん、よろしくお願いします」


 リリアさんはペコリっ、と頭を下げた。なんだかかわいらしい子だなー。

 そんなことを思っていたら後ろから何やら突き刺さるような視線を感じ取った。振り返ると怨嗟の念が伝わってきそうなほど睨んでいるアリサの姿がある。


「レイン様なんて知らないもんっ」


 頬を膨らませ、アリサはプイッて顔を逸らした。

 あまり見ない姿で、そのヤキモチを妬いているアリサはなんだかかわいらしい。


「はいはい、ノロケはここまで」


 受付嬢のお姉さんが手を鳴らし、見ていた野次馬を散らしていく。当然、僕達も注意され、以後は気をつけるようにって言われちゃった。


 何はともあれ、三つ星クエストを受けられるようになる。これはとっても大きな収穫だね。


「それじゃあ、パーティーに加入させますのでライセンスを出してください」

「はい。あ、ところでヴァンさんは?」

「どっかに行っちゃったかな。でも後で合流するよ」

「そうですか! 楽しみです!」


 ヴァンさんに会うだけなんだけど。

 ま、いっか。ひとまずリリアさんをパーティーに加入させて。あとはこのままクエストを受けてっと。


「これでよし。これからよろしくお願いしますね、リリアさん」

「はい!」


 さて、これからクエストの準備をしなきゃ。初めてダンジョンクエストを受けたから、入念にだね。


 忙しくなるぞー!


 こうして僕はリリアさんをパーティーに迎え入れた。でも、この決断がとんでもないことになるなんて、この時は考えもしていない。


 だってリリアさんのことを真面目な人としか思ってなかったもん。


 何にしても、初めてのダンジョンクエストはとんでもない苦い思い出になってしまう。これはその前触れでしかなかったのだった。

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