第51話
「おらおらおらーっ!」
この高い声じゃ、掛け声をかけてもいまいち迫力に欠ける。が、声で攻撃するわけでもなし、俺は両の拳で巨人を殴りまくった。予想どおり、大して効いちゃいないが、まるきりノーダメージでもなさそうだ。巨人は両腕で顔をかばいながら、じりじりと後退していく。
そうか、顔が大事か。確かに、お前の見てくれは悪くなかったな。それなら、お前は顔が弱点だろ。俺は建物を利用して巨人の顔の高さまで跳び上がり、顔のガードの薄い部分に回し蹴りを放った。
よし、入った。そう思ったのも束の間、巨人は咆哮を上げて俺に殴りかかって来た。おいおい、なんて迫力だ。おっそろしくて、全身鳥肌が立つ。顔は弱点じゃなくて、逆鱗だったか。辛うじて躱すが、ギリギリだ。次の一手が来たら避けられんぞ。そんなことを考えると、それが来るんだ。右フックから左ストレートというコンボで、俺はあえなく吹っ飛ばされた。受け身を取る間もなく、家の壁に叩きつけられる。モデルハウスみたいな嘘臭い家のくせに、強度は抜群だ。俺はしたたかに背中を打ち、地面にそのまま落下した。打撃に次ぐ衝撃。息が止まる。プリ方式でも、痛いものは痛いらしい。地面に伸びたまま、体が動かない。
くそ。今踏み潰されでもしたら、俺はお陀仏じゃないか?そうなったら、俺は消えるだろうが、残された連中はどうなるんだろうか。寝てる場合じゃないぞ。そうは思うが、全身がびりびり痺れている。身を起こすのが精いっぱいだ。だが、奴さんは遠慮会釈なくこちらに向かってきやがる。巨人の足の裏、というか、靴の裏が見える。絶体絶命じゃねえか。
と、目の前に黄色い円盤がびゅっと飛んできた。巨人は足を引っ込めてそれを避ける。おかげで俺は、辛くも危機を脱した。
「アウルムさん、大丈夫ですか?」
プラが駆けつけて、俺の肩を支える。俺たちはよろめきながらも建物の陰を利用して逃げ、巨人から距離を置いた。
「助かった。ありがとよ。」
「いえ、間に合って良かったです。それにしても、あれは本当にアウルムさん…小林さんの奥様なんですか?」
「さあな。顔かたちは似てるけど、本人はとっくに死んでるしな。」
「あの、さっきは夢中でしたけど、その…良いんでしょうか。」
「ん?ああ、攻撃して良いかってことか。気にするな。バンバンやってくれた方が助かる。まあ、お前の気が進まないなら、無理にとは言わねえけどな。」
漸く体の痺れも消えてきた。俺はプラから体を離した。もう大丈夫そうだ。ごきごき、と首を回して鳴らす。プリ方式の身体は随分と頑丈にできている。ついでに、服も。
「悪かったな。どうやら、俺がお前を巻き込んじまってるみたいだ。」
今度はぽきぽきと指を鳴らしながら、俺は謝った。物陰に隠れた俺たちを探して、巨人がウロウロしている。いつでも飛び出せる準備は整えておかねば。
「いえ、そうとも限りませんよ。今回はともかく、他の悪役は小林さんとはつながりません。前の虫は私とケレさんの苦手なタイプでしたから、持ち回りかもしれません。」
「そうだとしても、今回は俺に責任がある。あんな化け物作っちまってよ。虫も相当だったが、あれより性質が悪いだろ。俺はさっき、小便ちびりそうだったぞ。」
そう言った直後に轟音が響き、モデルハウスがいくつか消滅した。ああ、本当に、最初のオナモミ魔人が恋しいよ。あいつは本当に害のない奴だった。本物のオナモミのように。
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