第41話

「待てよ、こいつまだ終わってないぞ。ほら、消えねえもん。ずっとくすぶってやがる。」

「ホントですね。嫌だなあ。火を消さないといけないんでしょうか。」

「かもしれないな。雨を降らすとか、水を出す魔法を使えって話だとすると、厄介だな。」


 俺は思案し、物の試しにプラにカメハメ波を撃たせてみた。だが、火は消えなかった。あの技はそういう性質ではないらしい。しかし、ケレがいない今、魔法の杖もないから、合体技も決められない。


 どこかから水を汲んでくるしかないか。池のような水たまりなら、この世界にもあった気もする。だが、バケツも桶もないし、どうやって運搬するのかが問題だ。


「私ら男子の必殺の消火法と言えば…」

「いい加減にしろよ、魔法少年を汚すな。大体、引っ掛けられるほど近寄れねえし、量も足りんだろが。」


 俺はプラをひっぱたいた。どうしてこいつはすぐ下ネタを発するんだ。魔法少年の自覚が足りん。


 バケツは道々探すとして、俺とプラはまず水場に向かった。公園っぽい場所に行けばあるだろう。その目論見通り、巨大タバコののろしが見える距離の公園で、俺たちは池を発見した。ただ、バケツは拾えなかった。ボートでもあればと思ったが、それもない。


「草を編むとか?」

「やり方分かるのか。」

「いえ、そういうサバイバルスキルは、お年寄りがご存じかと。」

「ジジイに何求めてるんだ。言っとくが、俺は戦争も知らねえ世代だぞ。」


 お互い、役に立たない。


 しょうがない。これを使おう。俺はフリフリの衣装を脱ぎ始めた。


「どうしたんですか、アウルムさん。お色気シーンですか。私にはその嗜好は無いんですけど。」

「バカたれ。バケツ代わりにするんだよ。完全防水じゃないからぼたぼた漏れるだろうが、それでも無いよりは汲める。」


 それにしても、脱ぎにくい。何だこの真田紐は、どこに絡んでるんだ。力任せに引っ張っても、何しろ魔法少年の服だから丈夫にできている。ちぎれやしない。俺は脱ぐ前にこんがらがってきた。


「おとなしくしてください、手伝いますから。」

「おう、任せた。こんな奇妙な服、ジジイにゃ着たり脱いだりできねえよ。」


 俺はプラのなすがまま、神妙に待った。プラはああでもない、こうでもない、とそこかしこの結び目をほどき、ボタンを外し、随分経った頃にようやっと上衣を取っ払うことに成功した。


「おお、裸になると、すっきりするな!このぴらぴらしたのが、ずっと鬱陶しくてな。」

「では、私も参戦します。水は多い方が良いですもんね。」

「よっし、じゃあ、脱がせてやるよ。背中の紐とか、自分じゃ無理だろ。」


 今度は俺がプラの衣装を剥ぐ番である。無駄に飾りが多くて、剥きづらい。結び目も硬いし。まあ、本来、魔法少年や魔法少女の衣装を脱がせる場面は無いのだろうが。特に、プリ方式であればその視聴者は子どもである。健全なる育成のためにも、少年少女の脱衣シーンなんて御法度だろう。俺は何をしているんだ、と思わんでもないが、他に手段が無いのだからしょうがない。


 苦労しいしい、俺は何とかプラの服を取り払った。誤解のないように言い添えると、俺もプラも真っ裸ではない。下半身の衣装はそのまま着ている。


「…ケレさんがいたら、大変だったでしょうね。」

「興奮し過ぎて、戦力外だよ。」


俺がそう言うと、プラはちょっぴり寂しそうに笑う。


「さあてと、水を汲んで…布が丈夫だから、意外と漏れないな。」

「アウルムさん、両方持てるなら、私の服も持って行ってください。私より足が速いですから。」

「おう、そうしよう。」


 俺は水袋を両手に一個ずつ持って、立ち上がった。なるべくこぼれないうちに、消火だ。ダッと駆け足で巨大タバコの切れ端の山まで戻り、火口の部分に水をかける。熱くて近寄れないから、最寄りの建物に登って、上から撒くのである。目標は過たずだが、やはり水が足りないか。白い煙がもうもうと上がる中に、まだ赤く火が残っているのが見える。何往復かしないとなるまい。


 俺はまた池に向かって走った。これで倒せるなら、時間はかかるが楽なものだ。

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