第20話
役割分担できるというのは良いものだ。俺は魔法のことは何も考えず、ひたすらにビルを殴り、蹴り、しばいた。多少窓が割れたりはするが、やはり致命傷を与えることはできない。それに、ビルを攻撃しているのだから、俺の手や足も痛い。あまり楽しい時間ではない。その上、四肢が無いくせに、ビルのやつは体当たりでこちらに攻撃をかましてくる。これが存外鬱陶しい。空中に跳び上がった時に攻撃されると、避けきれない。俺は迂闊にもしっかりと一発喰らい、思い切り地面に叩きつけられた。
「アウルムさん!」
プラが駆け寄ってくる。俺は何とか身を起こした。ちっとばっかり痛むが、目を背けたくなるような傷は無いようだ。さすがプリ方式。血も流れなきゃ、フリルの一つだに破れやしない。
「俺の方は心配要らねえが、魔法の杖はどうなんだ?」
「出ました!」
向こうからケレの声が聞こえた。そっちを見ると、なるほど、プリ方式にハートやら羽やら宝石やらがゴテゴテくっついた短い棒切れを手にしている。それを振り回しながら、ケレがこちらに走ってきた。走行速度は、俺といい勝負だ。まあ、魔法少女たるもの、こっちが標準レベルなんだろう。
「よくやった。どうやって出したんだ?」
「ええと、きゅん、きゅん、きゅぴーんって感じです。」
その役に立たんアドバイス、どこかで聞いたぞ。俺は近くに浮かんでいるショコラをちらりと見遣った。ショコラは素知らぬ顔をしている。
「私はその場面を見ていたので、動きを真似してみたんですが、出ませんでした。少女じゃなきゃ、ダメなんでしょうかねえ…。」
プラはしょんぼりうなだれている。まあ、魔法の道具を求めて股間を探るようなおっさんでは、ダメかもしれんな。
「無いものはしょうがねえや。出たんだから、ケレ、お前、やってみろ。できそうか?」
「そうっすね。何となく、使えそうな予感がします。」
「んなら、プラ、お前は同時に撃ち込め。力を合わせるってのがこういう時の王道だろ。俺はまたアイツの動きを止めておく。」
「ラジャー!」
プラからは返事が聞こえなかったが、んなことに構っている暇はない。どうも、このビルは今までの悪役に比べて手ごわい。下手したら、こっちがやられちまうかもしれない。まあ、やられたって、結局は透明になって現実世界に帰るだけかもしれないが、余計なリスクを冒す必要はない。俺は気合を入れてビルを蹴りまくった。調子に乗っているうちに、コツが掴めたのか何なのか、足や拳も痛くなくなってきたし、ビルの壁面が崩れるようになってきた。素手でコンクリを叩き割れるとは、俺もプリ方式でレベルアップしているのかもしれん。
「父つぁん、避けて~!」
ショコラの声が聞こえてきたので、俺はさっと身を翻してビルから離れた。間髪入れず、緑を基調とした派手派手しい光線が、青白い光線と絡み合うようにして、ビルに向かって一直線に伸びていく。光線はビルに直撃し、ビルの全体がまばゆい光に包まれた。初手に決めたプラ一人の技とは、効果が違うようだ。ビルは光に包まれたまま徐々に薄くなっていき、そのまま光と共にすうっと消えてなくなってしまった。
どうやら、何とかかんとか、俺たちは勝利したらしい。
「やったー!」
ケレが両手を上に突き上げて、喜びを表している。その手には、さっきのプリ的な棒切れ。うまく使いこなせたんだろう。
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