仄暗い灯が迷子の二人を包むまで

霞花怜(Ray Kasuga)

第1話 わかりきった怪異

 岩槻駅からの道を歩きながら、瀬田直桜なおはスマホの地図を開いた。バイトの面接場所が、いまいちよくわからない。

 アプリには真面に表示されないし、近隣を知る大学のゼミ仲間に聞いても、「そんな場所にマンションはない」と言われるばかりだ。

 仕方なく行けるところまで、と来てみた訳だが、案の定、道に迷った。


「やっぱり、やめとくべきだったよな」


 普段の直桜なら、こんな如何にも怪しいバイトには絶対に手を出さない。だが、今回ばかりは何故か、ずるずるとここまで来てしまった。


(条件が良かったってのもあるけど)


 国委託の非常勤勤務だが、三カ月続けは準公務員、半年続けば国家公務員扱いになるらしい。

 今時、国家公務員というのも、正直良い職業とも言えないが、故郷の親は喜ぶことだろう。両親を説得できれば、大学卒業後も関東に残れる。


(あんな地獄みたいな場所、二度と戻りたくねぇ)


 地元に戻らずに済む口実が得られるのなら、仕事など何でもよかった。


(上手くいきそうだったら内定蹴って、こっちに鞍替えしてもいいしな)


 今、内定を貰っている企業も悪くはないが、親を説得するには弱い。国家公務員くらいわかり易くないと、碌にパソコンも使えないような田舎の高齢者は納得しない。

 面倒くさすぎて、頭痛がしてくる。

 思い出したら苛立たしくなり、ガリガリと頭を掻きむしった。


「ん? あれ……?」


 全体的に黒い建物が視界に入り込んだ。

 さっきまで、こんな建物は無かったはずだ。

 直桜は小さく息を吐いた。


「やっぱ、の仕事かな。だとしたら、一発採用だろうなぁ」


 躊躇うことなく、直桜は突然現れたマンションに足を踏み入れた。


 自動ドアを潜り、面接に指定された部屋の部屋番号を押そうとパネルの前に立つ。

 押す前に、エントランスの自動ドアが開いた。

 奥に進み、エレベーターに乗ってみる。やはりボタンを押す前に3階のボタンが点滅した。

 エレベーターを降り、303号室の前に立つ。

 インターフォンを鳴らす前に、扉が開いた。


「本日、面接予定の瀬田直桜さんですね。怪異には慣れた様子ですね。時間通りの到着も好ましい」


 眼鏡にスーツ姿の、如何にも公務員といった格好の若い男が顔を出した。


「マンションを見付けるとこからこの部屋に着くまで全部、テストなのかと思ったので、流れに身を任せました」

「成程」


 男が直桜に目を向ける。足元から頭のてっぺんまでを、さらりと観察する。


「貴方は採用です。立ち話も何ですから、中にどうぞ」

「もう採用……。さすがに早い」


 促されるまま、直桜は部屋の中に入った。


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