リアルクエスト
少年
第1話
約一世紀前、世界にダンジョンが出現した。
あらゆるダンジョンが世界各国に建ち始め、人工的に建てられたものではなく、何かしらの力が働きダンジョンが現れた。
ダンジョンが現れるのと同時期に、人類は覚醒した。
覚醒した人々はあらやる現象、体感を目の当たりにして個々の能力や役割を理解し、世界は新たに時代を築いた。
ダンジョンと覚醒により、今までに実現可能とされてこなかった科学を一気に進化させ、現代ではあらゆる地球環境を解決した。
この現代において、世界的人気を誇る職業が存在する。
それこそ、ダンジョンを攻略し膨大な報酬を得られる命懸けの職業、冒険者。
ダンジョンに住まうモンスターからしか得られない特殊な宝石―――通称、魔石がこと現代においては重要視されている。
地球環境を改善させたのも魔石の役割が大きく、国家は隈なく魔石を欲しがる。
それも強いモンスターから得られる魔石ほど、その価値は高い。
冒険者という職業が世に浸透した今、やはり冒険者という職業は絶大な人気を誇る。
金にもなる冒険者という職業は、力ある者からしたら逃せないチャンスだ。
反対に、力無い者は何も得られない。
誰もが強く、誰もが大金を稼げるわけではない。
この世は弱肉強食であり、冒険者は実力主義。
底辺は決して裕福ではいられない。
F級冒険者である
これといった力もなく、ダンジョンから生き残る運だけは持ち合わせた青年。
その青年はある時、チャンスを得た。
己を強くするチャンスを。
偶然にも手にしたユニーククエスト。
「そろそろ時間だ」
啓の目の前に映る透明なウィンドウ―――クエストボードのセットタイマーがゼロになった時、新しくクエストが更新される───。
/
身なりがきちんとしていない
両親は高校生活真っ只中にダンジョンブレイクが起き、ダンジョンモンスターがダンジョンから抜け出し、地上で暴れ回る現象・・・スタンピードに巻き込まれこの世を他界した。
高校は学費を払えなくなり、中退をした
未成年者でも稼げるとはいえ、過酷な現場がほとんど。
啓は特別強い力などなければ優れた能力を持ってるわけではない。
故に下級モンスターを倒すのも一苦労といった始末。
能力社会となった現代において、冒険者になる選択肢しか残されていなかった。
常にボロボロになりながらも生きながらえて早三年。
未だ最下級ランクであるF級冒険者として日々ダンジョンに潜っていた。
「またいるぜ、ヌービーが」
「懲りないなアイツも。三年も活動して未だF級冒険者だなんて、俺ならとっくに辞めてるよ」
初心者ダンジョンと呼ばれるダンジョンの入口前で多くの初心者冒険者が集う中、ダンジョンを管理するギルド員たちが啓の姿を見て話題に出す。
勿論、その声は近くにいた啓にははっきり耳に届いているが、何事もなかったかのように横を通り過ぎる。
ヌービー。
それは、皮肉が込められた異名だ。
初心者ダンジョンを一度も攻略を出来た試しがなく、万年F級冒険者という肩書きが「ヌービー」の二つ名を印象付けさせた。
初心者ダンジョンではちょっとした有名人だが、いい方向で目立ってる訳では無い。
啓はダンジョンの入口、内部への通路に入る。
すると、目の前にトュルンという音と共に視界に映る透明なウィンドウ。
それはクエストボードというダンジョンに入ると本人にしか視えないダンジョンシステム。
クエストボードは
報酬はランダムで、武器が手に入ることもあればアイテムが手に入ることもある。
冒険者はダンジョンクエストをクリアし、ダンジョンを攻略していく。
ダンジョンクエストはダンジョン攻略の鍵となる。
クエストを進めていかない限り、ボス部屋が開かなかったり攻略が行き詰まったりする。
ダンジョンクエストとはダンジョンを攻略と共通の関係にある。
故に冒険者はダンジョンクエストをクリアできなければならない。
しかし、啓の場合未だ一度もダンジョンクエストをクリアしたことがない。
何せ啓は偶然にも本人にしか与えられない特別なクエスト、ユニーククエストが発現したからでもある。
“ダンジョンで生き残れ”
ユニーククエストが発現するのは非常に珍しく、ユニーククエストの報酬は一般クエストより豪華だ。
そんなユニーククエストを手にした啓は、今までユニーククエストをクリアしたことがない。
だが今回こそは、と意気込んでダンジョン攻略を目指す。
「間違いなくボスを倒し終わればクエストがクリアされる、はずだ。心の準備は出来ている」
既にダンジョンボスまでの道のりはあと少しというところまで来ていた。
長かった初心者ダンジョン攻略も終わらせる勢いで臨んだ。
携帯する武器は刃こぼれを起こしているボロボロな剣一本。
武器一つ買うお金すら惜しく、しばらくは同じ剣を愛用している。
モンスターと出会わないままダンジョンを歩いていると、高校生ぐらいの初心者パーティがモンスターであるコボルド数体と戦っていた。
彼らは戦いに慣れていない様子だ。
少しだけ見守ろうとしたが、魔法攻撃を得意とする魔法使いの冒険者がゴブリンに背後を取られ、コボルドが斬りかかろうとしていた。
仲間たちは魔法使いを助ける余裕などなく、魔法使いはコボルドに攻撃を許そうとした時、
カキン!
剣と剣が交差し金属音が鳴り響く音は魔法使いの注意を引き付けた。
魔法使いは啓の突然の乱入により驚く。
魔法使いの少年は魔法詠唱を唱え、杖を媒体に火の球―――ファイアーボールを背後に迫っていたコボルドに攻撃を与えた。
コボルドは息絶え、仲間たちが戦っていた他のコボルドもようやく討伐されていった。
一息を着けるようになった頃、魔法使いの少年が啓に近寄る。
「先程はありがとうございました!」
魔法使いの少年が礼を言うと他の仲間もお礼を口にした。
「気にしないで。パーティでもないのに突然加勢しちゃって悪いと思ってるから」
「いえいえ!おかげさまで助かりました!」
公式には存在しないルールだが、冒険者の暗黙の了解というべきマナーが存在し、その中でもレイド中のパーティのモンスターを倒すことは横取り行為である為、良しとしない傾向がある。
これはパーティ同士の喧嘩や揉め事の原因になる為だ。
「僕、
「あはは...。仲間になってくれる人もいないから暫くは一人で潜ってるんだ」
照れくさそうに話すと朝凪は意外な提案を持ち掛けた。
「あの、良かったら僕たちとパーティを組みませんか!」
それは啓にとって嬉しい提案だった。
今までパーティは何度か組んだことはあるが、実力がハッキリすると邪魔者扱いされパーティを除外され続け、ヌービーという異名が付き始めてからパーティの誘いは愚かパーティの参加もできずにいた。
ダンジョン攻略は基本パーティで行う。
元々弱い啓にとってはパーティは必要不可欠な存在だ。
魅力的な誘いなのは間違いない。
だが・・・。
「誘ってくれてありがとう。でも、きっと足手まといになるのは間違いないから遠慮しておくよ」
迷惑にはなりたくないという考えがあるから断る。
「そうですか...。いえ、こちらこそありがとうございました。もし次にお会いする時は今よりも強くなってお会いできるのを楽しみにしてます!」
「うん、君たちならすぐに強くなれるさ。がんばって」
彼らと別れ、しばらく歩き後ろに朝凪たちが見えなくなった時。
「俺のバカ野郎...!」
自分の発言を後悔していた。
ダンジョン攻略に手詰まりである啓は、間違いなくパーティを組んだ方がいい。
だが、三年間ソロだったことで身に付いた変なプライドと劣等感が足枷となった。
それにダンジョンボスまでもあと一歩だ。
「......ここで後悔してても仕方ないか。これまでも一人でやってきたんだ、初心者ダンジョンくらい一人でクリアしてやるさ」
啓は拳を握りしめ、奥へ奥へと進んでいく。
先へ先へと進む啓の通り過ぎていった場所から少しずつ音を立てて地割れを起こしていることを、誰も知らない。
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