第14話 例のアレ

「あ! 来てくれたんですね! 待っていましたよ!」


ハンスと2人で店内に入ると、私に声をかけてきた店員が駆け寄ってきた。


「言われた通りに伺いました。よろしくお願いします」


「いえ、こちらの方こそよろしくお願いします。まずはお食事でもいかがですか? そちらのお客様もご一緒に」


男性店員はハンスにも声をかける。


「はい! 是非!」


ちょうどお腹が空いてきた頃だし、無料で食事にありつけるなんて本当にラッキーだ。


「え? ぼ、僕も本当にいいんですか!?」


ハンスは驚いた様子で自分を指差す。


「ええ、勿論です。ではまず席にご案内します」


店員に案内された席は昨夜と同様カウンター席だった。そして好きなメニューを注文して良いと言われたので、私は遠慮するハンスの分まで注文した。

肉料理に魚料理、それに飲み物も忘れずに。



「おまちどうさま!」


テーブルの上に次から次へと料理が並べられていく。


「あの、本当に僕もご馳走になっていいの?」


ハンスは余程悪いと思っているのか、何度も私に尋ねてくる。


「いいに決まってるじゃないですか。ここはお店側の好意をありがたく頂戴しましょうよ」


「うん……そうだね……」


ハンスはようやく納得してくれたのか、料理の皿に手を伸ばした。


「……美味しい、家のシェフが作った料理は格式張った食事が多いけど……こっちの料理のほうが僕の口に合うよ!」


ハンスは目をキラキラさせる。やっぱりハンスはお金持ちのお坊っちゃまなのだ。何しろシェフが家にいるくらいなのだから。


「それは良かったですね。どんどん食べましょう」


「うん!」


私達は会話するのも忘れるくらい、夢中になって料理を食べ続け……あっという間にすべての料理を完食してしまった。


すると、そこへ見たことのない大柄な男性がカウンター越しに声をかけてきた。


「お嬢さんが、昨夜この店でマッチ棒ゲームを披露したお客様ですか?」


「ええ。そうですけど?」


途端に男性は笑顔になる。


「そうでしたか、やはりお嬢さんだったんですね? いや〜驚きました。こんなに綺麗だったとは」


「あの、どちらさまですか?」


するとハンスが突然会話に割り込んできた。


「あぁ、これは失礼。私はこの店のオーナーです。昨夜はお嬢さんのお陰で店の売上が大幅にアップしたんですよ。それで今夜もお願いしたのです」


「え? そうだったのですか? す、すみません。失礼な態度を取ってしまって」


ハンスが顔を赤くして謝罪する。


「いえ、いいんですよ。いきなり話しかけられれば誰だって警戒するでしょう。お食事はいかがでしたか?」


「はい、とても美味しかったです。ご馳走になりました」


「僕までありがとうございました。本当に美味しかったです」


私がお礼を述べると、ハンスも続く。


「そう言ってもらえると光栄です。それで? そろそろ例のアレ……やっていただけますか?」


オーナーが意味深なセリフを言う。例のアレ……何だかやばそうな言い方だが、何のことかは分かっている。


「ええ、おまかせください!」


そして私は意気揚々とマッチ箱を取り出した――

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