第35話 再会の約束と出発
「よし!設置完了っと」
レスは猫の宿り木の厨房奥のスペースに転移魔導具の設置を行っていた。設置した転移魔導具について、現時点ではモル親子は利用出来ないようになっている。さすがにまだデルニエールのことや旅のことなどを説明するには早すぎるという判断だ。もう少し付き合いを重ね、タイミングを見てから色々と話そうと考えている。これについてはよろず猫の面々も同様である。
「設置は終わったかしら?」
モルが様子を見にやってきた。
「はい。設置は終わりました。モルさん、すいません。この転移魔導具の転移先のこととか、詳しくお話出来なくて」
「いいのよ。まだ出会って数日程度でそこまで全てを話してほしいとは思ってないわ。私達が信用に足ると思ったら教えて頂戴ね」
「ありがとうございます」
レスは深く頭を下げる。契約とはいえ、快く設置場所を提供してくれたモルに詳細を話さない事に申し訳ない気持ちが込み上げてくるが今はモルの配慮に甘えることにした。
「みんなはもう外に?」
「ええ、宿の前でレスさんを待ってるわよ」
「ああ、そうだ。モルさんこれを」
「ん?」
レスは厨房の入口の邪魔にならないところに体長70cmほどの鉄人形を置いた。これはイストンツーの事件の時に回収した魔導兵器『
「これに触れて魔力を送ってもらってもいいですか?」
「お人形?こうでいいかしら?」
モルが魔力を供給すると『
「!!びっくりした。これは何?」
「びっくりさせてしまってすいません。これは『
「..ありがとう。うちなんて場所を提供しただけなのにここまで」
「単純にこの場所とモルさん達が好きなんですよ。お気になさらず」
レスは少し照れくさそうにそういうと外に向かって歩き出した。
「はぁぁ。本当にジロはいいご縁を持ってきてくれたわ」
モルは息子のジロに感謝するのだった。
***
「..ジロ、ミミ。そんな落ち込むな。またすぐ会える」
「わかってるよ..」
「…」
レスが外に出ると、ロンが膝をつきながらジロとミミに語りかけていた。ミミはすでに決壊寸前である。
「お待たせ。あれ?ジロくんとミミちゃん、寂しくなっちゃったのかな?」
近くにいたミーナにレスは小さな声で話しかける。
「そうなのよね。さっきまで元気だったんだけど。すぐ会えるとはいえ、別れは寂しいわよね」
(君は殿下と別れる時、微塵も寂しそうではなかったけどね?)
理解を示すミーナに少しの疑問を抱くレス。影からテネも出てきて、ミミを慰めに向かっている。
「よっし。みんなお待たせ。そろそろ出発しますか。門の所でガストンさん達も待ってるだろうし」
レス一行は集合し、宿の前で並んで見送ってくれるモル親子と向き合った。
「じゃあ、モルさん、ジロくん、ミミちゃん。行ってきますね。これからもよろしくお願いします。何だかんだちょくちょく帰ってきますから」
レス達は和かな笑顔で挨拶をする。
「はい、気をつけてね。いつでも帰ってきて」
「「…」」
「ほら、ジロ、ミミ?」
「..次来るとき、お土産忘れないでよ..」
「うぅぅぅー!!」
ジロは下を向きながら痩せ我慢の挨拶、ミミはとうとうモルの後ろで泣き始めてしまった。
「まったくもう。レスさん達、大丈夫だから気にせず出発してください」
「わかりました。じゃあみんな出発しよう!」
レス達一行はお世話になった猫の宿り木を後にし、門へと向かう。
***
王都ロヌデロイの街側の門の前にはすでに猛る獅子団の面々とドム、ピピが待っていた。
「おう!来たな。待たせやがって」
「どうせそんなに待ってねぇくせにお決まりのようなセリフ吐いてんじゃねーよ」
ガストンの文句にゾーイがすかさず返す。ガストンとララ以外の団員は馬車へ荷物の積み込みを行っている。
「かぁー!相変わらず口の減らねえ野郎だぜ」
「ふん!」
ゾーイとガストンは向かい合うと堅い握手を交わす。
(え?なんで今の流れで握手?)
さすがのレスも困惑を隠せない。同族にだけ通じるシンパシーがあるのだろうか。
「ガ、ガストンさんは奴隷として売られてしまった皆さんを救出に?」
「おう。そのつもりだ。まずは一度ギュンガに戻るがそのあとは『リューム神教国』に向かう」
「リューム神教国ですか」
リューム神教国。魔人のみが暮らす宗教国家だ。リューム神教国に暮らす魔人は自分達が人族の中で最も優れた人種であるという考えを持っており、排他的な傾向がある。
レティーヌ商会長のカプシンへの尋問により、獣人達の売り先が判明したのだが、それがどうもリューム神教国に繋がっていたのだ。
「ちょっと厄介だが、同胞を見捨てることは出来ねえ。まあ、サクッと行ってバシっと救出してくるぜ」
「団長、油断しすぎだ。もう少し慎重に行動してほしい」
ガストンの発言をララが諌める。
「わーった、わーった。ったく、ララは厳しいぜ」
「ガストンさん、協力出来なくて心苦しいですが、どうか気をつけて」
「おう。ありがとな。お前達はどっちに?」
「俺たちはロヌス王国北領ノーズンの最北端にある黄昏の草原へ」
「ほう。あの人外魔境で有名な所か。お前達も色々と訳ありだなー。…あそこはいままで誰も踏破したやつがいねーって聞く。気をつけていけよ」
「はい。ありがとうございます」
最初はいつものおちゃらけた口調で会話をしていたガストンだが、黄昏の草原に向かうとレスが発言すると、真剣な表情になり、気遣ってくれる。
「団長ー!副団長ー!準備出来たぜー!」
猛る獅子団の男性団員の一人が準備を終えたらしく、ガストンとララを呼んでいる。
「お?準備出来たみてーだな。おーい!ドム、ピピちゃん!俺たちはそろそろ出発するぞー」
「おん?もう行くのか!」
ガストンがエルと会話をしていたドムとピピを呼びつける。ドム達が気付き、こちらに駆け寄ってきた。
「おう。ドムも達者でな。ギュンガに来たらまた一杯やろうぜ」
「おうおう!あんちゃんと知り合えてあまりギュンガに行かなくてもよくなりそうだがな!がっはっは」
「お父さん..そこは話合わせるところでしょ」
「ピピちゃん、いいってことよ。このほうがドムらしくていいぜ」
ガストンとドムはかなり仲が良いようだ。ピピが首を振って呆れている。
「ドムさん、ピピさん、俺たちもそろそろ行きます。見送りに来てくれてありがとうございます」
「そうか!あんちゃん達ももう行くか。土産話を楽しみにしてるぞ!」
「王・・レスさん、気をつけてね!」
レス達もそろそろ出発する旨をドムとピピに伝える。二人は笑顔で見送ってくれる。
「じゃあ、ガストンさん、俺たちも行きます。どこかでまたお会いしましょう!」
「そうだな。お前達とはまたすぐ会える気がするぜ。また会おう!」
ドムとピピに手を振りながら、レス達は北へ、ガストン達は西へ旅立っていく。
(王都でもいい時間を過ごすことが出来た。いよいよ黄昏の草原か。さーて。大精霊に会うことは出来るかね)
レスは、黄昏の草原にいると言われる大精霊に思いを馳せる。
「マスター。愚かな人もいますが、それでも人とはいいものですね」
頭の上のリムが小さな声でレスに話しかけてくる。
「そうだね。これから先も色んな人達と出会えるよ。楽しみだね」
「はい。マスター」
王都から北へ。レス達の旅は続く
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