逆転の『不死』スキル持ち魔王討伐団に入団する〜働いていた闇ギルドに裏切られた俺は不死という無敵スキルを身につけた

返り桜

第1話 依頼

 朝日がうっすらと空を照らし始めたころ、おやっさんに呼び出された。

 伝言通りに、アークギルドから回された馬車に飛び乗る。


 走りだすと同時に、おやっさんとこの下っ端が俺に顔を寄せてきた。そいつは、ケンカがめっぽう弱くて、アークギルドでは下位ランクだったと思う。


「あのクソ野郎! ミノタウロスみたいに暴れやがって!」


 車内は暗かったが、血走った目を見て、怒り狂っていることが分かった。


「マジで殺せよ……っていうか、アイツを殺せなかったら、俺がお前を殺す!!」


 まだ頭が回っていなかったので、コイツの言うことは全く意味が分からなかった。

 しかし、しばらく揺られて、頭がシャキッとしてからも、やっぱり下っ端が言っている意味は分からなかった。


 なんでお前が俺を殺すことになるんだよ……。敵の前で、どうしてアークギルドのメンバー同士が殺し合いを始めるんだ……。思考回路がどうかしてやがる。まあ、だからといって、いちいちコイツの相手をするほどの元気はない。


 人気のない水車小屋の近くで馬車が停まった。外に出ると朝日が下っ端の顔を照らして、少しだけ意味が分かってきた。

 アザだらけで、唇は切れて、まぶたがうっ血してる。どうやら俺が考えていた怒りのレベルを遥かに超えていたようだ。


「あの水車小屋にいるはずだぜ、寝ていたら好都合だ」


 下っ端の口から涎が出ていた、歯も何本か折られたらしい。口も麻痺してやがる。


「ナイフとか、武器は持ってるのか? それともスキル持ちか?」と、俺をつま先から頭まで舐めるように見た。


 この世界は腕っぷしが強いか、スキル持ちか、どちらかじゃないと、生き残れない。

 それか、超金持ち、だったら生き残れるのかもしれない……が、金には無縁なので俺もそこらへんの詳しいことは分からない。


 スキルがあれば……なんて思ったことは今までに一万回ぐらいあると思う。

 火、水、風の精霊に祝福されて生まれると、何もないところからこれらを発生させることができるらしい。

 羨ましすぎる。


「いや、何も。だが……殺しはいやだ」


 俺はそう答えると、案外「そうか」と言って怒ることもなく、そいつは馬鹿っぽく聞き流した。


 俺一人で入ると、水車小屋の中は広く、ど真ん中で大男が眠っていた。

 よくこんなガコン、ガコンと水車の回る音がする場所で寝れるなと思っていたら、のっそりと起き上がった。


「また取り立てか。いいかげんにあきらめろよ」


 そいつの声は小屋中に響き渡った。硬い胸板をもつ頑強な人間が出す、太くてよく通る声だ。


「……俺もそうしたいけど、そうしないといけないって言われて、そうするほうが楽だからなあ」


 大男は俺の話なんかおかまいなしに、三歩ステップして近づくと、大ぶりのパンチを放った。

 勢いこそあるが、俺は上体を後ろに引いて回避すると、大男はバランスを崩した。空ぶったせいでガラ空きになった横顔にパンチを見舞うべく、体をひねる。

 その時、大男は振り終わった反動を反対側の足に溜めて、腰を回した。もう片方の腕から不意のパンチが飛んできた。


 見た目以上にセンスのあるパンチングだ。何度も練習して、場数も踏んできているのだろう。


 俺はガードしたが、遅れたことで踏ん張りが効かず、ガードの姿勢のまま横に吹っ飛ばされた。


 あー痛い。腕、折れたかも。


 立ち上がってグーパーしてみると、ギチギチと二の腕あたりから音が聞こえる。だが折れてはいないようだった。

 大男は渾身の一撃を放ったまま、石像のように固まっている。――が、やがて前のめりに倒れた。

 ガードする瞬間に打ち込んだパンチが効いたんだろう。俺が奴の顎下を殴打するほうが少し早かった。


「終わった」


 外で待っていた下っ端に伝えると、薄羽のようなナイフを取り出して、俺と入れ替わりで水車小屋に入っていった。


 用水路を流れる水で顔を洗う。


 俺は殺しはしない。ただの殴り屋だ。

 おやっさんから依頼があれば、どんなやつでものしてやる。


「殺しだけはやらない……」


 やがてもう一台馬車がやってきて、俺たちが乗ってきた馬車の横で止まった。

 馬車を降りてきたのはおやっさんだった。

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