第17話 ユニークなスライム

「このスライムがユニークモンスター?」


「ユニークでしょ?」


「そういう事じゃねぇ……」


 お気楽というか、リリィとは別方向でマイペースだ。

 

 この世界のスライムって最弱レベルのハズ。

 それが知恵を持って上級ダンジョンにいるなんて完全に異常だ。

 

「マヤ先生、このスライムについて知ってます?」


「知らんな。四つもダンジョンがあるからどっかにいるだろうと思っていたが……まさかスライムとはなぁ」


 マヤ先生ですら知らない?

 て、事は最近現れた個体か。


 謎が多い……


「余はただのスライムだった。だけどながーく生きていたある日、突然喋れるようになった」


「なんと、ユニークモンスターは突然変異じゃったのか……」


「らしい。で、気づいたらここにいた」


 生まれた瞬間、喋れたワケじゃないのか。

 現実世界で言う進化みたいなものだろうか?

 

「で、擬態とか分身とかも飽きて今に至る」


「擬態? 誰かに化けられるのか?」


「ちょっと違う。人間観察やちょっと触って得た情報から自分の身体を……えいっ」


「「「っ!?」」」


 身体がゆらゆらと動いたと思った瞬間、目の前に水色の長い髪を生やした中性的な人間が現れた。

 オマケにウチの制服を着ている徹底ぶり。 


 これがさっきのスライム!?

 まるで別人じゃないか!!


「すごーい!! めっちゃ可愛い!!」


「スライム様もこんなに可愛らしくなるんですね……!!」


「よかった、人間受けがよくて」

  

 規格外だ。

 人間並みの思考を持って人間に化けられるモンスターなんて。


 悪用しようと思えばいくらでもできる。

 敵には回したくないヤツだな……


「で、お願いがある」


「お願い?」


「余をここから出して欲しい」


 スライムの要求は単純なものだった。

 ここから出たいって……そうか。


 ダンジョンのモンスターは外に出れない性質がある。

 大賢者スライムもそれが原因で未だダンジョンに拘束されているワケだ。


「何をするんだ? 世界征服?」


「そんなの出来ないし楽しくない。余は外の世界を見たい」


 単純な興味、ってことね。

 見た感じ害もなさそうだし外に出しても問題ないだろう。


 そもそもスライム一匹で何が出来るんだって話だし。


「で、外に出すにはどうすればいいんだ?一回倒せばいい?」


「それだとスライム様が死んでしまいますよ……」


「従魔契約をすればよい。そうすればダンジョンから解放されるし、こやつも主人の管理下でなら自由に動ける」


「なーるほど」


 手順をマヤ先生から聞き、早速実践する事に。

 えーと、手をモンスターの頭にのせて魔力と念を出し続ける……


 パァアア……


「おー」


 スライムの身体が光り始めた。

 しばらく光を発し続けた後、俺の身体に”何かが”流れ込んだ瞬間、光が一瞬にして途切れてしまった。

 

 今ので従魔契約が結べたのだろうか?


「できた」


「おー、よかった」


「これからよろしく、マスター」


「マスターって……まあいいけど」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら俺の肩にのってくるスライム。

 こう見るとペットみたいで可愛らしい。


「そうだ、スライムって呼ぶのもあれだし名前を決めないとな」


「確かに!! あ、じゃあスライムだからライムっていうのはどう!?」


「考えるの早!? そんなすぐに決められても」


「気に入ったー」 


「いいのかよ……」


 まあ本人がいいって言うなら俺はいいけどさ。

 という訳で大賢者スライム改めライムが仲間になった。


 また賑やかになりそうだ。


〜〜〜


「マスター、面白い情報が手に入ったー」


 ダンジョンを出て帰宅後、ライムが俺の元へぴょんぴょん飛びながら近づいてきた。 


「面白い情報? てか、どうやって調べたんだ」

 

「この子達に調べさせた。いっぱい出せるし弱いから気づかれなくて最高」


「はい?」


 そう言うとライムは周りに何体もの小型スライムを召喚した。

 いや、召喚したというより既にいた?


 何もない所から徐々に現れたし、透明化でも使えるのだろう。


「まさかスライムを何体も複製した上で透明化を?」  


「うん」


 マジか……

 

 透明化と分身を両方できるなんて、ライムは相当ヤバイことをやっている。


 分身一体一体は弱いらしいが、これを監視や潜入工作などに悪用すればあらゆる情報が手に入るだろう。


 俺の分身は戦闘用だから数は出せないし、そもそも透明化に制限がある。

 とんでもないモンスターを拾ったなぁ……


「二年のセシリー皇女が派閥を立ち上げた。この学園の新たな代表に君臨するって」


「派閥?」


「チームのようなものだよ。お姉ちゃんの周りには優秀な人がいっぱいいるから」

 

「後はアイテムや情報を自分達で独占する為らしいですね」


 そういえば腕に謎の腕章をつけた生徒を何人も見かけた気がする。

 あれはどこかの派閥に所属していた生徒だったのか?


「後、闇討ちから身を守る為だね」


「闇討ち?」 


「この学園ではランク前に相手を襲撃して弱らせる、なんてことが頻繁に起きるからね」


「何だよそれ、反則だろ」


「それが先生はスルー、風紀委員会は目に付いたものしか拘束できないって言うから黙認されてるの」


 素材をいじりながらため息を吐くリリィ。


 闇討ちがほぼ合法化されてるって、結構治安が悪いな。

 それだけランクに勝ちたいという思いの表れだろうが、流石に反則をしてまで勝とうとは思えない。


「で、そのセシリーってお姉ちゃんも闇討ちを考えてるとか? ありえないか」


「ありえるね」


「え?」


「お姉ちゃんは使える手なら何でも使う人だから」

 

 冷たく吐き捨てるようなセリフ。

 室内の空気が重くなり始めたときだった。


 コンコン


「? どちらですかー」


「あ、セシリー派閥の人達」


「「「え!?」」」


 ライムの情報に全員が驚く。

 

 まさかもう俺たちを!?

 確かに最近はランクをガンガン盛ってたから妙に目立っていたんだよな。


 狙われるのも無理ない、か。


「数は二、武器は出してない、周りに人も隠れていないよ」


「うっそー、お姉ちゃんもう来たんだー……」


「ど、どうしましょう!?」


「落ち着け、武器を出してないって事は話し合いができるハズだ。俺が行く」


 ランクで盛る方法だけ考えればいいって思っていたが、少し甘かったな。

 ランクバトルを評価のシステムに組み込んだ結果、人間の黒い部分が浮き出ている。


 ある程度は対策をしておかないとな……


 頭を悩ませながら、ドアを開ける。


「お待たせしましたー」


「あれ、こちらはユイ様の部屋ですよね?」

 

「え、はい」


「「……?」」


 俺を見た瞬間、二人の顔が険しくなる。


「聞いていたのと違うぞ」


「もしかして男を……?」


「入学したばかりで!? これは報告せねば……」


 なんかヒソヒソと会話をし始めたぞ。

 思ってたのと違うような…… 


「す、すみません!! また今度来ます!!」


「失礼しました!!」


「え!?」


 一方的に謝られ、颯爽と去っていく二人。

 何がしたかったんだ……ピンポンダッシュでもされた気分だ。


「何だったのでしょうか?」


「今、スライム達が追跡してる。少し待って」


「えー、ライムちゃんすごーい!!」 


 ただ俺のカンが告げている。

 絶対面倒くさいことに巻き込まれた。


 俺はランクに集中したいんだ、厄介事は勘弁してくれよ。


 ……まぁ、人間同士の争いだし仕方ないけど。

 ライムの報告を待つか。

 

~~~


「どうだ、勧誘は成功したか?」


 宮殿のような場所の一室。

 その奥で優雅に紅茶を飲む銀髪の女性が一人。

 

 リラックスしているその姿でさえ、上品さと不思議なオーラを放ち、見る者を圧倒していた。


「そ、それが……」


「?」


「リリィ様が男を連れ込んでいました……」


「何?」


 空気が凍る。

 

 まずい、地雷を踏んだと報告した二人は焦った。

 だが使命は果たさねばならない。

 

 どんな事があろうと、間違った情報だけは”リーダー”に入れてはならない。


 で、その真実を聞いた事で紅茶を持つ手がぷるぷると震えだし、


「つまりリリィはそいつに犯されたという事か……よし殺そう」


 殺意のこもった視線を周囲に向けた。


「え!?」


「一線を超えたかどうかはまだ不確定ですが……」


「うるさい!! 見ず知らずの男にリリィが汚されたんだ!! ゆくぞお前たち!!」


「「は、はい!!」」


 バンと立ち上がり、取り巻きを連れて外に出る”リーダー”


 この一件が、ゼクス達を更にめんどくさい事へと巻き込んでいく……

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