第95話 ヘルゲート
俺はリッチの様子を見てくるという理由をつけて、坑道の3層にやって来た。
俺がヘルゲートを使うと決めると、フィアがサポートしてくれるという。
坑道の3層に来て、俺が「ヘルゲート」と呟くと、目の前に、俺にしか見えない空間の歪みが現れ、それは徐々に大きくなって坑道の天井まで届く大きさになった。更に、その歪みの中央が割れて何かが出て来た。出て来たのは青い金属の手のようであり、続いてその手が、中央の割れ目をぐいと押し広げると、蒼い色をした全身鎧の騎士が姿を現した。
その背後で、空間の歪みも、中央の割れ目も消えていく。
目の前に文字が現れ、点滅している。
種族 冥界の鎧
名前を付けると、眷属になる。
『今までの召喚と違って、名前を付けないと眷属にならないのか?』
『これは、良い魔物を引き当てたのう』と、フィアが嬉しそうに呟く。
『こいつは当たりなのか?』
『こいつはリビングアーマーじゃが、冥界の鎧といって、そなたが鎧として身に着けることも出来るものじゃ』
『鎧ならゼネラルアーマーがあるぞ』
『こいつは、そんなものとは比較にならぬわい』
『そうか。とにかく名前付けだな。冥界の鎧だから、ハデスでどうだ』
「お前の名前は、ハデスだ」と名前を付けると、リビングアーマーが一瞬輝き、俺の身長と同じくらいの鎧になった。
ステータスを見ると
名前 ハデス
種族 冥府の鎧
固有スキル 冥界同化、冥府斬、冥界魔法、物理攻撃無効、魔法攻撃無効、不破壊
称号
冥府の守護者
状態 ダブリンの眷属
何だこのスータスは?各パラメーターは無しで、称号持ちだ。冥府の守護者って、メチャクチャ強そうじゃないか。しかも、物理攻撃無効に魔法攻撃無効、しかも不破壊って、こいつは無敵に近いんじゃないか?
『ステータスを見たか?』とフィア。
『ああ、見たぞ。凄まじいな』
『この鎧が、ゼネラルアーマーなぞ比べ物にならないことは分かったじゃろう』
『それは分かったが、俺が纏うことが出来るのか』
『命じてみるがよい』
『ハデス、俺の鎧になれ』と俺が命じると、目の前の鎧が消えて、俺がその鎧を纏っていた。
しかもバイザーには、視界を確保するスリットが無いにも関わらず前が見える。
外からは、スリットがあるように見えるが、それは偽装で、実はスリットは塞がっていた。ハデスには目がないので視界を確保する必要がないからだ。
しかし、これは鎧を装着した者には、より安全だと言える。何処かの王のような事故の恐れがないからだ。
スリットが塞がっているのに前が見えるし、視界が広い。何より、ゼネラルアーマーの欠点である、顔の防御があるのが心強い。
『念じただけで着脱できるのは、ゼネラルアーマーと同じだな。これを纏っていると物理攻撃無効に魔法攻撃無効になるのか?怖いもの無しじゃないか?』と、俺が呑気なことを考えていると、
『攻撃が効になるだけじゃ。魔法が無効になるわけではない』
とフィアに、嗜められた。
『魔法無効にはならないのか?』
『攻撃する魔法だけが無効になる。攻撃の意思がない魔法は防げぬから気を付けよ』
『攻撃の意思がない魔法とは?』
『例えば、位相系の魔法じゃ』
『位相系の魔法?』
『転移には、大きく分けて3種類あってのう』
フィアがいきなり転移の話を始めた。
『1つ目は、空間歪曲による転移じゃ。2つ目は、次元移動による転移じゃ。先ほどのヘルゲートがそうじゃ。3つ目が、位相変化による転移じゃ』
『位相変化による転移?』
『簡単に説明すると、そなたの記憶には緯度と経度という概念があろう。これは、位置を表しておる座標の筈じゃが、この座標の数字を変えてしまえばどうなると思う?』
『座標の数字を変える?』
『例えば、そなたが緯度30度、経度30度の位置に居たとする。それを、緯度100度、経度100度に書き換えてしまえば、どうなるかということじゃ』
『その位置に移動するのか』
『そういうことじゃ。それが、位相系の魔法の使い方じゃ』
『それじゃあ、座標さえ分かっていれば、どこにでも転移できるのか?』
『術者自身だけではないぞ。相手の座標を変えてしまえば、相手の意思に関係なく転移させることができる』
『例えば?』
『火山の火の中でも、地中深くでも、海の底でも、思うところに転移させてしまえる。しかし、それは攻撃ではないから、その鎧では防ぐことが出来ぬぞ』
その話を聞いて、正直、俺はビビった。
『恐ろしい魔法があるもんだな』
『恐ろしい魔法は、山ほどある。油断せぬことじゃ』
『フィアは、そういった魔法が使えるのか』
『転移系の魔法なら、全て使えるぞ』
『それなら位相系の魔法もか』
『当然じゃ』
『それなら、俺に負けることはなかったんじゃないのか?』
『あれは、我が負けを望んだからじゃ』
『そんなことを言っていたな。それじゃ、フィアは無敵じゃないか』
『そなたからは、そう見えるかも知れぬが、もっと恐ろしいものは、いくらでもおるぞ。油断せぬことじゃ』
『例えば?』
『今は、知らぬ方が良かろう』
フィアは、より上位の存在については語ろうとはしなかった。
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