第92話 緒戦の勝利
3日後、ランズリード城の前には、2000の領兵が集結していた。
領兵の前に立つのは、鱗状の金属鎧で全身を包んだランズリード侯爵だ。
「皆の者、積年のうっぷんを晴らす時が来た。毎年、子供の生贄を求めて来た、あのくそ伯爵が言っていた、リッチが伯爵領を守っているというのは嘘だったぞ。皆の前にいる子供達こそ、伯爵が、生贄としてリッチに捧げたと言っておった子供達である。儂の横に並ぶ、王都の英雄ダブリン将軍が、そのリッチを味方に付けて、子供達を救い出してきたのだ」
ここで、侯爵が言葉を切ると、
「「「「「おおおお〜」」」」」と、兵士たちが武器を挙げて、気勢を上げる。
今回の戦闘には、俺も参加することを要請された。アンテローヌの側近として本陣に帯同する将軍職を提示されたのと、アンテローヌのたっての頼みがあって断り切れなかったのだ。もっとも、俺にとっても、貴族の軍というのが、どれくらいの強さなのか?特殊なスキルを使わないで、俺がどれだけ戦えるのか?などを確かめる機会でもあるので、引き受けるメリットはある。
俺がもらった肩書きは、何と傭兵将軍というものだった。傭兵部隊が居るのならともかく、傭兵がいない侯爵軍に、傭兵将軍などという肩書きは存在していない。
しかし、平民であることと、軍を指揮する権限を持たせることを両立させ、なおかつ司令官の1人であるアンテローヌの側近としても不自然ではない肩書きとして、無理矢理、考え出されたのが傭兵将軍というものだった。
そういった事情から、将軍と言っても指揮できる部下はいない。ただし、ルビーとオーリアとクレラインを、俺専属の連絡将校として帯同させている。
この世界の軍隊に連絡将校などというものはない。俺が勝手に連絡将校という肩書を提案して、周囲の部隊との連絡役だと説明すると、そのまま受け入れられた。オーリア達も本陣にいる以上、一兵卒では困るからだ。
俺が初耳なのは、俺が王都の英雄と言われていることだ。恐らく、景気付けの為に適当なことを言っているだけなのだろうと思う。
ランズリード侯爵の演説は続いている。
「皆の者、よく聞け。リッチの脅威はもう無くなった。くそ伯爵の戯言は、ただのコケ脅しだったのじゃ。それに引き換え、我が方には、リッチを味方につけたダブリン将軍がおる。しかもじゃ、よ~く聞け。儂は昨日、この王都の英雄を、我の跡取りのアンテローヌの婿に迎えたのじゃ。これで、ランズリード侯爵家も未来永劫安泰じゃ」
「「「「おおおお〜」」」」と、再び兵士たちが歓声を上げる。
「それでは勝どきを上げよ」
「「「「おおおおお~」」」」兵士たちが雄叫びを上げる。
「皆の者、出撃せよ」
侯爵が見守る中、2000の兵士が出撃していく。歩兵800、弓兵200,騎兵200、輜重兵300が出発し、最後に、侯爵のいる旗本隊500も出撃した。
さて、侯爵が出陣を決意した最大のポイントは、俺がリッチと直接話をして、無事に生きている点にある。
一度、話が出来たのなら、次に会ったときにも話が出来るだろうと考えたようで、今回の遠征では、俺にリッチと交渉させ、その間にカスタリング鉱山を占領してしまう作戦が立てられていた。
俺には何の相談もせず、勝手に一番重要な役目を押し付けているところは、やはり、貴族は簡単には信用できないということだ。
とはいえ、リッチと話が出来ると伝えてしまったこともあり、ここは、フィアと打ち合わせして、一芝居打つつもりでいる。
この侯爵との付き合いは、狐と狸の化かし合いのような面があるから、仕方がないだろう。
侯爵軍は、隊列を組んで粛々と街道を進んでいく。先日、俺達が越えて来た伯爵領との境界になっている尾根を越え、一気にカスタリング鉱山を落とすつもりなのだ。
尾根を越える直前で野営し、次の日は、一気に兵を進めるつもりでいた侯爵軍だが、翌日、尾根を越えて直ぐ、500名程のトラディション伯爵軍と衝突した。
侯爵軍の先鋒は、800の歩兵と200の弓兵。一方、トラディション伯爵軍は400の歩兵と100の弓兵。
双方の歩兵が盾を構え、一定の距離から弓を撃ち合うと、そのまま横一列に広がって突撃するだけの戦いになった。
初手から魔法を撃ち合うという展開はなかった。魔法兵は温存して、ここぞというタイミングで投入されるようだ。今、魔法兵達は、本陣で待機している。
歩兵同士の戦いは、作戦も何もなく、ただ打ち合うだけで、あっという間に乱戦になった。
このとき味方の陣から角笛が吹き鳴らされ、尾根の裏側に隠れていた騎馬隊が尾根の上に姿を現し、一気に山肌を駆け下りた。
角笛を聞いた味方の歩兵は、中央を開けるように左右に分かれていく。敵兵だけが取り残された中央部分に、200の騎兵が突撃した。
斜面を駆け降りて来る騎馬隊を、歩兵が受け止めることが出来るわけがない。中央部分の敵兵は、雪崩のような騎馬隊に蹴散らされて踏み潰され、大幅に数を減らした伯爵軍は潰走を始めた。それを騎馬隊が追撃して蹂躙していく。
敵の戦死者は多数にのぼり、片や味方の被害は僅少、時間にして1時間にも満たないうちの大勝利に、侯爵軍は大いに湧いた。
「ライオット将軍、見事な用兵じゃ」
と侯爵は、騎馬隊の将軍の采配を褒め、その場で論功行賞を行い、侯爵軍はそのままカスタリング鉱山へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます