第82話 膨らむ疑惑

これは話し合う必要があるな。

「俺がテレナに、いいように使われているのは分かった」俺はここで言葉を切って、次の言葉を慎重に選び、

「そうかといって、テレナとの関係をどうこうする気にはなれない。俺は、何も知らない顔をしてでも、テレナとの関係を続けたいが、皆は不服か?」

「利用されていると分かっていてもかい?」

とルビー。

ルビーは、最初からテレナに反感を持っている。

俺は、苦々しさを押し殺しながら、

「そうだ」と答えた。

「惚れ込んだもんだね。いつか捨てられたら、どうする気だい?」と、オーリア。

「そのときは、そのときだ」

「何故、そこまであの女に肩入れするんだ?美人だからか?」とルビー。

「それもあるが・・・」

3人は、俺の言葉の続きを待っている。

「テレナが俺にだけ見せているのは、嘘の顔じゃないと思いたいんだ」

「あの女も自分に惚れていると思っているんだ。はっ、おめでた過ぎないか?」とルビー。

俺がムッとした顔をしたのだろう、

「ルビー、そこまで言っちゃいけないよ」とオーリアはルビーを嗜めてくれた。と思ったら、続けて、

「あんたが騙されていても!利用されていても!あんたの気が済むようにしたらいいよ。魔物になりかかっている私は、黙ってあんたの後を付いていくだけだ」と、嫌味を言いながらも、俺に助け舟を出してくれた。

「私もオーリアと同じだ」とクレライン。

ルビーは、俺の味方をすると言った2人を睨みながら、

「分かっているよ。私だって、あんたに付いていくしかないんだ。私も、自分が人間でなくなりつつあることは分かっている。そして、ご主人が、人間ではないことも薄々感じているよ。ご主人は、私達眷属にとっては王様なんだから、いつまでも、自分を人間だと勘違いしていないで、いつかは、私達の側に戻って来て欲しいんだよ」

「俺は、ただの人間だぞ」

「今はね。先のことは考えないのが一番さ。ルビーも、もうお黙り。ただね、影というのは自分の心を踏みにじってでも目的を遂げるものだということは心しておきな」

俺がオーリアに説教されて、この気不味い話し合いは終わった。


テレナについての話し合いは終わったが、これからどうするかについては、今から話し合わなければならない。


「さっきの話は終わったから、調査の話をするぞ。俺達の動きは把握されているらしいが、相手も表立っては動けないようだから、このまま残りの2つの鉱山を調べるが、それでいいか?」

「案内人も出来たしね」とオーリアがアンデッドを顎で指す。

「次の刺客が来たら、私が殺るよ」とルビー。


アンデッドから聞き出した情報では、トラディション伯爵家の領地にある鉱山は、このバルダール鉱山の他に、グランズドリー鉱山とカスタリング鉱山があるらしい。

盆地から見て、山脈を時計と反対回りに行くと、まず、グランズドリー鉱山があり、その先に、カスタリング鉱山があるということになるらしい。

それらの鉱山に行くのは、一旦盆地に降りて街道を利用した方が早い。

しかし、俺達が領地に入っているのが伯爵家に知られてしまっているので、ここは安全策を取って、山脈の中腹に、盆地を取り囲むように広がる森の中を進んで行くことにした。


俺達は、森の中の方が強さを発揮できる。オーク2体とスタンジー1体を、人目を気にせずに召喚できるからだ。俺達4人にこの召喚眷属を加えると、森の中でなら数百人規模の軍隊でも撃破出来る。

それに加えて、今回は、俺に斬り裂かれたアンデッドを、情報源として連れて行く。傷を隠すために、裂けたプレートアーマーを脱がせて、顔が隠れるローブを着せているが、アンデッドを連れて街道を行くわけにはいかない。


グランズドリー鉱山までは、馬車で街道を行けば10日程の距離だそうだが、道のない森の中を行くとなると、その3倍の時間がかかる。山の民であるサイツを先頭に、俺達は、まずグランズドリー鉱山を目指して移動を始めた。

サイツを先頭にしているのは、山の民と出会ったときのトラブルを避けるためだ。


歩きながらステータスを確認すると、

称号が

将軍→王(眷属を統べる)

と変わっていた。

ルビーが俺を眷属の王様だと言ったことが原因かもしれない。


その夜、焚火を前に座っていると、オーリアが横に座って来た。そして

「怒らないで聞いて欲しいんだけど、もしもだよ、フレイラを襲ったのがテレナリーサだったら、どうする?」と、思いもよらないことを言ってきた。、

俺は、その言葉に固まってしまい、ギギギッと音を立てるように首を回して、オーリアを見た。

「怖いことを言うなよ・・・」と俺は答えたが、そこでまた言葉に詰まった。


「それなら・・・それなら辻褄が合う。いろいろと、辻褄が合う。合い過ぎる」と、無理やり答えたが、嫌な汗が噴き出した。

「だろう。私もずっと疑問だったんだ。フレイラを襲ったのが伯爵家の影なら、とどめをさしていないのがおかしいし、その後でも、いつでも暗殺出来たはずだ。だから、襲撃者は伯爵家の影じゃない。それなら、王都の影かというと、こっちは、フレイラを襲う理由が分からない。もし、襲う理由があったとしても、これもとどめをさしていないのがおかしい。そこを考えると、フレイラを瀕死の状態にした上で、あんたと引き合わせることが、襲撃者の狙いだったんじゃないかと思えてくるのさ」

「フレイラと俺を引き合わせる?」

「あの日、あのタイミングで、あんたが、あそこに通りかかるのを知っていたのは誰だい?」

「俺達だけだろう」

「テレナリーサが、あんたを見張らせていたら、彼女もその中に入るよ」

「だけど、テレナは、フレイラが王都に来たことを知らなかったはずだ」

「消去法で考えるんだよ。いいかい、この場合のポイントは、フレイラの行動じゃなくて、あんたの行動だ。あんたという存在を知っていて、その行動を把握している人間が、あの場所でフレイラを襲って、瀕死の状態にして置き去りにした」

「しかし、それは、テレナがフレイラの行動も把握していなければ出来ないだろう?」

「だけど、その後のことを考えてみなよ。フレイラの話を元にして、私達は、こうしてトランディション伯爵領を調査しているじゃないか。この結果が目的だとしたら、仕組んだのはテレナリーサだということになる」

「それじゃ、フレイラもグルっていうことか?」

「そこまでは分からないが、誘導された可能性はあるね」

「フレイラの襲撃者が伯爵家の影じゃないのは、俺も同感だ。王都の影というのも無理がありすぎる。そういえば、フレイラは、最初、テレナリーサを頼ろうと思っていたと言っていた。何らかの方法で連絡を取ったことは考えられるか?」

「で、どうする?」

「どうするって言われてもな。このまま調査を続けるさ」

「テレナリーサとの関係は?」

「今のところ、疑いだけだからな。何も変える気はないよ」

「まっ、あんたは朴念仁なんだから、テレナリーサと知恵比べなんかしない方が無難だしね」

そう言い残すしたオーリアは、苦笑いを浮かべながらテントに入っていった。


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