私の場合

白内障の手術をした。みんなに「よく見えるようになる」と言われて期待していた。

確かに、鏡を見て驚いた

「わあーいやだぁ。私ってこんな顔してたんだ」

「そうだよ。だからなあ、お前のそんな顔でも、ずっと我慢してきた俺ってえらいだろう」

認知症で要介護3の夫がそう言いおった。


「とにかくあなたのご主人にはオウム返しが一番。すぐに同じ言葉を返しなさいよ」

友人から常々言われているのに、間髪を入れずに返すことができない。まず、グサっとなってしまい、それから何たる奴!と憤慨する。その後となるからどうしても間ができてしまうのだ。


それでも、決戦態勢に入るべく

「ねぇふみちゃん、さっき私になんて言った?」

「えー、さっき?もう覚えてないよ。ダメだよ。大事なことはすぐ言わなきゃ。俺、すぐ、忘れちゃうんだから」

敵の言葉に一瞬、納得してしまいそうになる自分が情けない。夫をふみちゃんと呼んでいるから、こんな時は迫力に欠けるのだと、今更ながらに思う。


全く、煮ても焼いても食えん認知症だ。

さりとて、仕切り直してまた鏡の前に立つ気もせず、憤懣やるかたなしで、ストレスもたまる。


でも、白内障手術をした後は期待通りに、すごくはっきりよく見える。

空の青さ、雲の白さ花の色の鮮やかさ、全てが今までと違う見え方だ。感激した。

その反面、顔のシミやシワ、洗面台の汚れ、茶渋のしみついた湯呑ー-、--、きりがないほど出てくる。

何から手をつけよう。

フームと考え、ここはしばし、見て見ぬふりをしようと決めた。

感動できるものに大いに感動し、楽しもうと決めた。

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