エピローグ

 国を巻き込んだ騒乱から三年――


〈フェール領 都市リッチェルド中央地区〉




「――しかし、兄ちゃんが衛兵団の団長とはなぁ……」


「私はリアムに最初から、良き指導者になれるよと言っていたけどね」


 張り合う事なのか……?。


「あぁ、其のお陰で、言伝以外で街の様子を確認できなくてな……どんな状態だ?」


「平和、尚且つ右肩上がりって感じだね。王政もしっかりと機能しているよ。ここ数年で国の生産量も驚く程に増加、畜産に農業……新薬の開発なんかも活発だね」


 上昇の一途ってやつか。

 そろそろ国交なんかも視野に入れて行きたい所だな、しかし何はともあれ情勢が安定している現状の維持が最優先か。


 国民の生活形態なども変化しているのだろう……そして其れに適応する為の新たな労働環境や食料事情、身体の不調なんかも……。

 そうだ……新薬……。


「キーンメイクは……」


「おおそうだ!兄ちゃんに伝えて無かったな。隠蔽……と言う訳にもいかないからな、ライドが国中を飛び回って他に薬が投与された者が居ないかを調べ上げ、正式に釈放となった」


 釈放か、キーンメイクの件に関われなかった事で杞憂を抱いていたが……良かった。

 しかしライドの奴、あれ以来、顔を見せないと思ったら……。


「今やその腕を買われ、ライドと共に各地を忙しなく巡っているそうだ」


 各地を……そうか、ライドアイツはキーンメイクの理想を叶える為に今度は……つくづく、お人好しな奴だ。


「クルダー、そろそろ……」


「えぇ、そうですね」


「何か用事が?」


 今日の多忙な予定を言うクルダーの顔には、切なさが浮かんでいる。


「また、暇を見つけて顔を出すとしよう。では支部長、行きましょう」


「支部長はもう引退したんだけどなぁ……じゃあリアム、また近いうちにね……無理は禁物だよ」


 賑やかな声が段々と遠ざかって行き、次第に反響も聞こえなくなり、やがて静寂の時間が訪れる。

 一息、そう思ったのも束の間。


 バタバタと喧々たる足音、そして扉を叩く音が鳴り響く。


「ノーレン団長!ダン・リーバス、報告に参りました」


「入って良いぞ」


 扉を開けるなり、掌を左胸に当て小さく頭を下げる青年。


「どうした?」


「報告します。北方大陸の小国より、バスティーナ女王陛下への謁見を求める使者が港へお見えになられています」


「謁見?分かった、俺は先に向かうとしよう。マイド達、親衛隊にも港へ向かう様に伝えてくれ」


 キレのある気持ちの良い返答の後、服の皺が消えてしまう様な直立そしてまた小さく頭を下げ青年は去って行く。

 

「さてと」


 鈍い光を放つ胸甲、鋲打ちの外套、部屋の景色を綺麗に反射する抜き身の剣を鞘へ収め、腰へ。

 やはり、この格好は身体に馴染む。


「行くか」


 外へ一歩踏み出せば、以前と変わらない街並みと喧騒。

 しかし数年前までは想像も出来なかったこの景色、かつて魔族と呼ばれた者達が人と共に生活を営む平穏な風景。


「港まで頼む」


 視界に映る、流れゆく街並み。


「良い所になったものだ」


 この平和を悠久のものとする為、異形と人が共に手を取り合う。


 


 ――そう此処は、黎明の国バスティーナ王国。

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