第29話 よいよいvsキャロル 青い鳥を追え
「にゃーのターン。 《龍石トロッコ》で1走行してターンエンドにゃ♪」
よいよい ゴールまで残り20→19
突飛なバトルはよいよいの先攻で始まった。
速やかに、キャロルへとターンが移る。
「私のターン! ギア1の 《
嫌った割には慣れた手つき。
恨むからこそ追っていたのか、最新のギミックでよいよいに追いすがる。
《
ギア1マシン ステアリング
POW 0 DEF 0
【豹変速】ゴールまで残り5目盛り以内まで進んだ時、このマシンカードを裏返して一番上に出し直す。
《ファンファン・タイム》✝
ギア2マシン マギアサークリット
POW5000 DEF 0
【登場時/手札二枚を裏のままアシストゾーンへ】山札から 《ファンファン・タイム》二台を選んで空いているマシンゾーンに出す。
「……いきなり人ん家に来てなにやってんだアイツ」
「キャロルのメイドか……その発想は無かったな」
「オマエも何言ってんだマス」
「…………、ふむ」
白目でマスへツッコミを入れるクリスを後目に。
よいよいについてきていたナナミは、戦いを眺めながら先ほどのやり取りを思い返していた。
◆
『────コレは建前にゃ。無理やり連れてくこともできるけど、それじゃあとあと面倒だからにゃー?』
この戦いの直前。
すきま風吹くボロ家にて。暴力で押し通せたよいよいの側から、話をスマートにするために戦いを提案したのだ。
もちろん、誘惑も忘れずに。
『にゃーと戦い勝てば無条件かつ任意で、負ければオヌシがメイドになってから強制で。うちのキュアカフェでの食べ放題に招待するにゃ』
『た、食べ放題っ!?』
『コレ、チャンスじゃ……久しぶりにもやし以外の晩メシをくえるぞ!?』
『最近、栄養不足が深刻だったしな……』
『ま、まってわたし、まだやるって決まったワケじゃ……』
さすがに恥をかく当人のキャロルは躊躇うが、そも状況はほぼ一択だった。
『さて。TCGインフルエンサーのにゃーとの出来レースに挑むか……それともジュワッジュワ言わせたサイコロステーキやカリッカリのベーコン載せた特上のパスタ等を、食べ逃した事を悔やみながら生きるか。好きな地獄を選ぶといいにゃ』
『縛りの結び方が特級レベル! 選択ミスったら生涯忘れられないレベル!!! ……ああわかったわよ、やればいいんでしょ!!』
拒否しても特に旨みはない……そう悟ったキャロルは、大人しく勝負に応じる事を選んだのだった────
◆
「……ねぇ、どっち勝つと思う?」
「……? この場合はキャロルじゃねーの?」
ともに観戦するアヤヒに問うと……意外な言葉が返ってきた。
「手札がチラっと見えたが……よいよいのヤツ、前環境からデッキを更新してない。完全に舐めプしてやがるゼ」
「……そう、みえるかなぁ?」
「……???」
やけっぱちで挑む様子だが……確かにキャロルは【豹変速】を利用している。
最新弾のギミックを取り入れた彼女の方が、環境に対応してるようには見える。
一方でよいよいは、少なくとも二年前にはあった初期マシンを使ってる。カードゲームはインフレしていくものなので、更新してない方が弱い……というアヤヒの意見ももっともだった。
そのはずだが。
「なーんか……そうじゃない気がするんだよね……環境読むってのは、それだけじゃない気がする」
「あぁ?」
「あのインフルエンサーが選んだデッキが、その程度なわけがない」
……そうこうしてるうちに、キャロルは三台のギア2で走行する。
キャロル ゴールまで残り……20→18→16→14
「……ターンエンドよ」
「じゃあ、にゃーのターン……ドローにゃ♪」
ターンは返した。
だが行動までは終わってない。
「そのターンの開始時。 《初級魔法・バインド》を使うわ」
「……ほう?」
特色を出した追撃。
攻め手を鈍らせる持ち味が光る。
《初級魔法・バインド》✝
ギア2アシスト マギアサークリット
【使用コスト︰裏向きのアシスト二枚を疲労】
◆このターン、最初に行動した相手のマシンをアシストゾーンに置く。
【発動後】このアシストを裏返して、アシストゾーンに残してもよい。そうしないなら、山札から 《初級魔法・バインド》を一枚選び手札に加える。
先刻、ファンファン・タイムを増やす時に置いた手札を早速使う。
「これで、あなたの次の最初の行動は無意味になる。気をつけて走ることねっ」
────マギアサークリットは緑の領域。
アシストゾーンをリソースとして、活用した戦法が得意だが……このデッキの場合、それは添え物程度の利用に留まる。
「効果を置いたあと、バインドを裏返さずに山札から新しい《バインド》を手札に加える……処理はおしまい。さあ、かかって来なさい」
「…………ふむ」
若干だが、キャロルが語気を持ち直す。
不安こそあれど、若干優勢かも……くらいには思っていたのだろう。
だが甘い。
甘すぎる。
その認識はガムシロップのように甘い。
「…………じゃあ、かかっていくとするかにゃ?」
現在、8万の脳を統べる帝王が。
下手な『V』よりはるかに名のしれた彼が、その程度で倒せるわけが無い。
「ギア1の龍石トロッコの上に、ギア2の 《アシガル・フレイマー》を、続いてギア3の 《ドラゴ・スクランブル》を出すにゃ!」
「……!!」
そして、圧倒が始まる。
続けざまの展開、それ自体はよくある流れ。
だがその内容が問題だ。
《アシガル・フレイマー》✝
ギア2マシン サムライスピリット【アヤカシ】
POW5000 DEF5000
【このマシンの上にマシンが置かれた時】このマシンカードをアシストゾーンに置く。その後、山札から 《アシガル・フレイマー》二台を選んで出す。
《ドラゴ・スクランブル》✝
ギア3マシン ステアリング【ドラゴン】
【各ターンの開始時/自分のマシン一台を自身の下へ】自分の山札の一番上を見る。それがギア4以下の【ドラゴン】コアを持つマシンなら出す。違うなら、山札の下に戻す。
「そのカードは……!!!」
「上にマシンが乗ったことで、アシガルは二台と一枚に分身。更にアシストカード 《ドミネーション・プランニング》。にゃーは山札の上6枚を好きに積み込めるにゃ!」
「ろ、6枚ッ!?」
並ぶカードは必殺の手順。
確定した未来を用意する、絶望へ追いやる手順だ。
《ドミネーション・プランニング》✝
ギア3アシスト ステアリング
【使用コスト︰場札を好きな数疲労】
◆自分の山札を見る。そこから払ったコスト+1枚のカードを選び、山札をシャッフルしてから好きな順番でその上に置く。
「コストを5枚……にゃーの場の全部を支払い効果を処理。順番は…… 《両裁剣暴 Q・Busta》 《マザーズラブ・マーモンズ》 《ネビルシュート・火車・ドラゴン》《両裁剣暴 Q・Busta》《両裁剣暴 Q・Busta》 《正義執行剣 オオミカミ・トラクリオン》……かにゃ。あとはなにもせずにターンエンドにゃ」
「えっ……」
走行なし。
必要ないし、余計だった。
ターンのはじめのアシスト送り……なんて相手にする意味すらなかった。
しかも。
「わ、わたしのターン、ドロー……」
「この瞬間 《ドラゴ・スクランブル》の効果♪」
震えるキャロルへ、今度はよいよいが圧をかける番だった。
否、圧では済まない。
「味方マシン一枚を自分の下に置いて、デッキトップを確認。それが【ドラゴン】コアを持つマシンカードなら自分の上に重ねて出せるにゃ♪」
「…………!」
「まぁーもちろん、今デッキの上に置いたコイツが出るんだけどにゃ? ……現れいでにゃ……マイフェイバリット 《両裁剣暴 Q・Busta》!!」
運任せのフリをした確定ガチャ。
予定調和で切り札が君臨する。
プレス機にかけるような、致命の圧が繰り出される。
《
ギア4マシン サムライスピリット【ドラゴン】
POW14500 DEF10500
【アースシェイカー(登場後、次の相手ターンの終わりまで、このマシンは攻撃や効果で選ばれない)】
【行動時】山札の一番上を見る。それが【ドラゴン】コアを持つマシンなら出してもよい。そうでないなら手札に加える。
「………………………………あぁ……」
キャロルは、あの日のように静かに泣く。
絶望の未来は、とっくに定められていたのだ。
ここで、ついていけてないアヤヒが声をあげる。
「おいおいおいおい……どうなってるんだコレ。どうなるんだコレ!?」
「まあそうだね……今でた 《Q・Busta》はまず倒せない。でもってターンを返したら最後、さっき見えたドラゴンが全部でてくるかな」
「……ハァ!?」
────よいよいのデッキは【アヤカシ連ドラ】と呼ばれる、【ドラゴン】コアを多用するデッキだ。
行動のたびにデッキの上を捲り、それが【ドラゴン】なら真価を発揮する……そんなカードの群れなのだ。
そのデッキパワーは二年ぽっちじゃ色褪せない。
「最終結果はギア4が三台並び、締めにギア5が出てトドメ。確か締めのは【三回行動】持ちだったから……走る距離は4+4+4+5+5+5……やっば、27メモリも走っちゃうね」
「に゛っ……」
だから、ほかに走る意味はそんなに無い。
20目盛り走ればいいゲームで、27目盛りも走れるムーブを抱えているのだ。
とんでもないオーバーキル……いいやオーバーランと言えた。
「……こりゃ、どうあがいいても敗北かなぁ」
「でも……でも、最初の攻撃は 《初級魔法・バインド》で止まるだろ!? 最新能力の【豹変速】もある!」
「無理だよ。1回止めたくらいじゃどうにもならないし……それに」
「────さらに。ギア4以上の【ドラゴン】マシンを出したから 《龍石トロッコ》の効果で1ドローにゃ!!」
「……ほら。いま手札に加えたカードもヤバい」
「えっ……」
もう、過剰なほどのチェックメイト。
さすがに上振れすぎたか。
《龍石トロッコ》✝
ギア1マシン サムライスピリット【ドラゴン】
POW 0 DEF 0
【このマシンカードの上に、ギア4以上の【ドラゴン】マシンカードが置かれた時】カードを一枚引く。
《マザーズラブ・マーモンズ》✝
ギア4マシン サムライスピリット【アヤカシ】
POW????? DEF?????
【ゴールキーパー】
【【ゴールキーパー】による登場時】山札の一番上を見て、それが【ドラゴン】コアを持つならこのマシンの下に置いてもよい。その後、行動中のマシンに攻撃を受けたものとしてバトルする。
効果バトルを行う受け札が手札へ。
さすがに、磐石にも程がある態勢だ。
「……あのゴールキーパーを越えない限り、キャロルに勝機は無い。レメディの裏面で勝てるならいいけど、それが無理なら……」
「ま、まさか…………」
事実、キャロルは苦悶に歪む。
残る手札、引き入れうる可能性、その全てを考えて。
考えて、考えて、考えて。
そうして、どう足掻いても無理だと理解して…………
「…………ま、まいったわ……降参よ……ッ!」
「…………ウソだろおい」
投了を選択する。
敗北を自ら認めたのだ。
「うむ……対戦ありがとうございましたにゃ」
「ぅぅ……ありが、と……ッ」
彼女は、無駄な特攻を望まなかった。
その光景をアヤヒは信じられなかったようだが……ナナミは、あれが自分でもスマートに降参してたと思った。
あれでは引き運もなにもない。
決定された未来。得るもののない戦いは、純粋な徒労でしかないからだ…………。
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