第71話 筑間先輩

 ある日の昼休み。

 久方ぶりの晴れやかな気分を堪能しながらお弁当を食していた。


 僕は購買部で買った総菜パン、英さんは恵莉花さんに作ってもらった栄養バランスの良さそうなお弁当、越後さんは茶色一色の胃が持たれそうなお弁当、吉祥院さんは重箱に入ったお弁当を食べていた。

 前から思ってたけど、吉祥院さんってお嬢様なのかな。見た目はギャルだけど、なんか苗字金持ちっぽいし。


「リラ、そんなお弁当食べて大丈夫なの?」

「へーき、へーき! これくらい食わないと部活で動けなくなるし!」

「いや、栄養バランスの話なんだけど……」

『未来でもこのスタイル維持してるのよね……妬ましい』


 そういえば、越後さんは女子バスケ日本代表を引退した後はモデルをやっているらしい。

 パツパツになった制服を着ているモモとスタイルを維持してモデルをやっている越後さん。未来は残酷である。


「それを言ったらツクモも栄養バランス終わってるっしょ」

「シロ君、いつも総菜パンだもんねー。くゆちゃん作ってあげたら?」

「何であたしが――あははっ、それもいいかもね」


 英さん、本当に猫を被るのが下手になったなぁ。

 モモのせいで心労は溜まるばかり。かと言って僕の家に来てもモモのせいでストレスが溜まる。どこかでガス抜きさせないとまずいだろう。


「大丈夫だよ。最近は僕もしっかり運動してるから」

「いや、だから栄養バランスの話をしてるんだけど……ま、いっか」


 何なら英さんにもスポーツを勧めてみよう。

 スポーツはいいものだ。身体を動かすと上のモヤモヤや下のムラムラはスッキリする。

 おかげで目の下のクマもすっかりなくなった。


「白君、ここ最近元気なかったけど、もう大丈夫そうだね」


 何が起こっているかは見えていなくても、モモがやらかしていることは察していたのだろう。

 英さんが安堵のため息をついた。


「最近は運動してストレス発散してるからね。おかげでここ最近は調子がいいんだ」

『チッ』


 おい、モモ。今、舌打ちしたろ。


『やっぱり三十路のおばさんじゃダメなのか? こうなったらこっちのあたしの体を……』


 モモが恐ろしいことを呟きだした。

 いい加減お色気作戦は逆効果ということに気づいてほしい。


「よっすー」


 モモの作戦にどう対抗するか考えていたら教室がざわついていた。どうやら二年生の先輩が教室に入ってきたようだ。


「筑間先輩!?」


 教室へ入ってきた二年生の先輩の姿を見るや否や越後さんが大声で叫ぶ。

 どうやら知り合いのようだ。奇遇だ、僕も彼には見覚えがある。

 越後さんは一瞬にして口の中の食べ物を飲み込むと、先輩へと駆け寄る。


「どうしたんですか?」

「いやぁ、ちょっと探してる一年生がいてさ」


 先輩は教室をキョロキョロと見渡すと、僕に視線を合わせて笑顔を浮かべた。


「おっ、いたいた。お前を探してたんだよ」

「バスケ部の先輩のー……えっと」


 そういえば、その場の流れで一緒にバスケはしたが名前を聞いていなかった。

 名前を呼ぼうとして固まっていた僕を見て苦笑すると、先輩は自己紹介をしてくれた。


「俺は男バス所属二年の筑間正治だ。そっちは?」

「自己紹介が遅れてすみません。白純です。ツクモは白って書いてツクモって読みます」

「じゃあ、あだ名はシロだな」

「っ! あっ、はい。シロって呼んでください」


 クロと同じ呼び方をされたものだから、つい言葉に詰まってしまった。

 そうだ、この先輩に感じていた既視感。それはクロとのやり取りだったのだ。

 いや、あいつの発言はもうちょい下品だったけども


「ツクモ、いつの間に筑間先輩と仲良くなったの!?」

「この前たまたま一緒にバスケやっただけの仲だよ」

「バスケ!? ツクモ、バスケやるの!?」


 越後さんが物凄い表情でこちらへと詰め寄ってくる。筑間先輩と知り合いだっただけで、何故こんなに興奮しているんだ。


『結局こうなるのね……』


 ふと、英さんの後ろにいるモモに視線を向けて見れば、珍しく険しい表情を浮かべていたのだった。

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