第69話 オマエヲコロス

 モモがパンツを履かずに登校してきたことが発覚した。


 その結果――


『オマエヲコロス』


 英さんは悪霊みたいになっていた。


「待ってよ、英さん。自分殺しはパラドクスが起きるよ」

「あっはは! 白君、ツッコミどころはそこじゃないでしょ。ていうか、その場合は未来のあたしがこっちのあたしを殺さなきゃ」

「黙れ元凶」


 他人事のように笑っているモモは一度痛い目を見た方がいいと思う。いや、痛い目は未来で散々見たからこうなっているのかもしれないけど。


「英さん、気持ちはわかるけど一旦落ち着いて!」

『落ち着けるわけないでしょ! だって、こいつあたしの体で、の、の、ノーパ……!』

「どうどう。一回、深呼吸してみよう」


 怒りで興奮している英さんを深呼吸して落ち着かせる。

 深呼吸するうちに段々と落ち着きを取り戻したのか、英さんの表情が落ち着いていく。

 だが、落ち着いたのはほんの一瞬だけだった。

 不意に顔を上げた英さんと視線が合う。何だろう、嫌な予感がする。


『……ちなみに、見た?』


 見たとは何のことか言うまでもないだろう。


「見てないです」

『オマエモコロス』

「何でバレたの!?」

『鼻の頭を掻いてたからよ!』


 しまった、嘘つくときの癖を直すの忘れてた!


『というか、モモ! よく見たらスカート丈だって短いじゃない! 誰かに見られたらどうするのよ!?』

「興奮する」

『ヤッパリコロス』

「ごめんて。そんなに怒らなくてもいいじゃない」

「この状況で怒らなかったら痴女だと思うよ」


 どうにもモモは倫理観や女性として大切なものを失ってしまったようだ。だいぶ現代の僕達とは感覚のズレがあるように感じる。


「こんなに拗らすまで放置しちゃってたんだろうなぁ……」


 改めて自分の罪を見せつけられた気分である。罪だけじゃなくて諸々モロに見せつけられてるけど。


「まあ、いつものくせというかへきが出ちゃったのは悪かったけど、約束通り身体返すわね」

『えっ、ちょ、この状態で――』


 英さんの言葉が終わる前にモモが肉体から飛び出してしまったため、霊体の英さんが肉体へと吸い込まれる。


 そして、元の肉体に戻った途端、英さんの顔が茹ダコのように真っ赤になった。


「うぅ……スースーする」


 慌ててスカートを抑えると、英さんは内股気味になりつつ涙目で呟いた。


「あたしが何をしたって言うのよ……」

「ナニをしたんでしょ」

「あたしはしてないわよ!」

「未来じゃしてたらしいけど」

「理不尽!」

「痛い痛い!」


 英さんは僕を涙目で睨みながら耳を引っ張ってきた。

 それから真っ赤な顔のまま俯きながら告げる。


「……恥を忍んで頼みがあるの」

「な、何?」

「白君のパンツ貸して」

「ほんとに恥を忍んでるじゃん」


 まあ、英さんの頼みはわからないでもない。

 スカートが捲れれば全部御開帳になってしまう彼女と違って、僕はズボンを履いている。中に下着がなかったところでダメージは少ないだろう。


『どうにも俺の匂いが好きらしいぞ。ヤったあととか俺のパンツ嗅いでるレベルだ』


 ふと、かつてのクロの言葉が過る。そういえば、英さんって匂いフェチだったよな。


「パンツの匂い嗅いだりしない? ちょっと貸すのが怖いんだけど」

「あたしがそんなことするように見える!?」

「見えるっていうか、クロの話じゃしょっちゅうだったみたいだけど……」


「Nooooooooooo!」


『パン』

「君は本当にもう黙ってくれ」


 聞きたくないとばかりに、英さんは両耳を塞いで発狂していた。


『諦めなさい。今の未来のあたしも匂いフェチよ』

「だからあんたはもう黙ってなさい! って、あれ?」


 モモに激高した英さんだったが、違和感に気がついたのか怒りから一転、困惑の表情を浮かべる。


「何であたしにもモモが見えてるの?」

『うーん、たぶん今のあたしが制服姿でノーパンだからシンクロ率が上がって見えるようになったとか?』

「は?」


 何言ってんのこいつ、みたいな表情を浮かべる英さん。僕も同じ表情を浮かべていることだろう。


『さすがに太ももに垂れてたのは乾いてるけど、死んだときがアレの後だったからデフォでノーパンになっちゃったのよね』

「もうこいつやだぁ……」

「英さん、パンツ貸してあげるから元気出して……」


 真っ白に燃え尽きた英さんが不憫過ぎて、パンツを貸さないという選択肢は存在していなかった。

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