第34話 私の家でやろっか

 放課後になり、僕達はいったん別れると、裏門のところで落ち合った。


「リラがいて良かったぁ……吉祥院さんや他の男子に捕まると長いんだよね」

「アケビなんて一度話し出すと止まらないからね」


 あのギャルっぽい子は吉祥院さんというらしい。英さんや越後さんを通してしか話したことないから名前を覚えていなかった。


「それにしても、越後さんの強引さがまかり通るのはすごいよね」


 越後さんの女王様の仮面はまだまだ有効だった。最近丸くなったとはいえ、多少横暴な振る舞いをしたところで、そういうキャラだと認識されているため、誰も文句を言う者はいないのだ。それはそれでどうかと思うけど。


「で、勉強会ってどこでやるの?」

「そりゃ企画者のハナブサの家に決まって――」

「はい、却下」


 英さんは良い笑顔で越後さんの提案を最後まで聞かずに遮った。


「だってぇ、部屋に男の子上げるの恥ずかしいもん」


 きゃるるん♪ という擬音が聞こえてきそうな声色だったが、その裏には「家には上げねぇぞゴラァ」という圧が見え隠れしている。

 いや、君いつもその男子の部屋でベッドに寝転がってるよね?


「ウチの家も無理。お姉ちゃんが帰ってきたら絶対割り込んでくる。イライラして勉強どころじゃないっての」


 越後さんはうんざりした様子で首を横に振っていた。

 お姉さんの生徒会長は三年生の学年主席である。教えてくれるなら一番良い先生になってくれそうなものだけど、越後さんの姉妹関係じゃ無理そうだ。


「僕の家を使えればそれで良かったんだけどさ。ちょっと今日は無理」


 僕の言葉を聞いた英さんはポカンとした表情を浮かべた。どうせいつでも使えると思っていたのだろう。


「両親が珍しく休みだから家でゴロゴロしてるんだ」

「忙しいとは聞いてたけど、やっぱりダメかな?」

「息子の友達が来て勉強会なんて聞いたら気を使っちゃうだろ」


 普段からせわしなく働いている両親にとって、家でゆっくりできる時間は貴重だ。

 僕の事情でそれを邪魔したくはなかったのだ。


『ケッ、お利口さんなこって。どうせ親なんてただのATMなんだから、便利に使っときゃいいんだよ』


 僕の横でクロが吐き捨てるように毒づいている。同じ親から生まれた同一人物なのに、どうしてここまで考え方に差ができるのだろうか。


「うーん……」


 英さんは顎に手を当てて考え込んでいる。僕の家を当てにしていただけになかなか代案が見つからないようだ。


「……わかったよ。私の家でやろっか」


 不承不承といった様子で英さんは溜息をつく。外では猫を被っているはずなのに、本当に嫌そうな顔を浮かべている。

 勉強会の場所も決まったことで、僕達三人は英さんの家に向かった。

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