狼を護衛兵にしてしまったらしい
「母上が芙蓉に喩えられるほど美しかったらしいからな。私は顔も知らないが、きっとよく似ているのだろう」
「ああ、瑠貴妃様のお噂はわたくしも存じておりますわ。それはそれはとてもお美しく、先帝のご寵愛をほしいままにしていたと」
「へえ、よく知っていたな」と
「ええ。以前、淑妃様に少しお話を伺いまして」
どこで淑妃と繋がりが、と一瞬不思議に思ったが、そういえば雲蘭は淑妃が送ってきた最初の妃だと、
「先帝の淑妃様は今どちらに?」
「俺の母上は、今は
彼女の代わりに
「先帝の后妃か……」
母である貴妃はもういない。皇后は今も皇太后として後宮にいる。淑妃は離宮にいる。では、四夫人の他の二人は?
(しかも、片方の賢妃は、確か私を殺すことになった理由を作った后妃……)
そういえば、項中書令は貴妃と恋人関係だと虎文が言っていた。
(虎文だけじゃなくて皇太后殿下にまで毒が盛られたことを考えても、先帝時代の人達について少しは知っておく必要があるようね)
いよいよ黒幕が自分を直接殺しに来ている。もしかすると、令慈が皇太后に毒を盛った『見慣れない侍女』だったのかもしれない。
(殺気も令慈だったってことね)
結局一度も姿を見たことはなかったが、虎文を殺そうとした者の姿など知る必要などなかったのかもしれない。
「気を付けろよ、
執務室に戻った瞬間、
「んんっ!?」
そのまま覆い被さるようにして口づけされる。
「――っちょっと、
いきなりなんなのか。
身を引こうにも長牀の背もたれが邪魔で身動きが散れない。両側には
「随分と仲がよろしいご兄弟ですね」
「は、はあ?」
「以前の陛下の時は、殿下は陛下と関わり合いになられなかった。おそらく、後継問題で波風を立てるのを恐れてだろうと思っていたので、俺も特に気にはしていませんでしたが」
「いつから、頬に触れるほど仲がよろしくなったのでしょうね?」
冷笑でもって見下ろされ、しまった、と
(そういえば、
「まさか、殿下もあなたが身代わりだと……女人だと知っていたり?」
「そ、れは……っ」
そう、彼は勘が良い。だから、すぐに否定できなかった時点で肯定しているも同じだった。
「なるほど」と
「俺は手当などの口実がなければ、人前ではあなたに触れることすらできないのに……」
やっと頬から手を離してくれたと思ったら、代わりに彼の顔が近付いてきた。
「おいしくも、嫌な立場ですよ」
「――っ――!」
頬を
「
「男を知らなすぎですね」
「そこで喋、っら、ないでっ」
まるで食まれているようだ。ビリビリと背中から指先へと痺れが走る。
「~~っ!」
さらに
腹立つほどに勘のいい男だ。
「身代わり……ですか。なるほど、そういった者なら身代わりになるのも納得ですね」
「顔に線でも入れて、色男にしてあげようと思ったんだけど」
「あなたがそちらのほうが好みというのなら、謹んで受け入れますよ」
食えない男だ。
「呼びに行きなさい」
「誰をです」
「項中書令を! 早く!」
彼は肩をすくめると、「かしこまりました、陛下」と何事もなかったかのように、さらりと出て行った。
「……これから昼間は白梅宮に籠もろうかしら」
顔が熱かった。
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