なぜか妹ができました
大抵の男であれば、これで鼻の下が伸びるのだろうが、
「俺がどこに行こうが関係ないだろう」
「陛下のところですか?」
「……だとしたらどうした」
「殿下は、近頃はよく陛下の元へ行かれているのですね」
「以前は日華殿などまったく近寄りもしませんでしたのに……」
袖を弱く引っ張られる。
この甘ったれた仕草を、愛らしいと思ったこともあったのだが。
「弟が兄に会いに行っておかしいことはないと思うが」
「陛下の後宮にも行かれたのだとか。例の新しい寵妃様に会いに行かれたんですね……寵妃様の宮から殿下が出て来るのを見たと、掃除の宮女達が話しておりましたわ」
あっ、と彼女の手が追うような仕草を見せたが、それよりも早く
「殿下っ」
「余計なことを考えず、さっさと寝るんだな」
◆
弱毒の件が片付いた後も、
それもひとえに……。
「誠に申し訳ございませんでしたっ!」
西充媛が訪ねてくるようになったからだ。
彼女は、卓に頭を打ち付けんばかりに勢いよく、大仰に、全力で頭を下げていた。花美人として迎え入れた
「ですから、その件はもうお気になさらずと前回も伝えましたのに。西充媛様に非はありませんので」
毒から回復して目覚めたあと、彼女はすぐに白梅宮にやって来て、寝台前の床で額ずいたのだ。自分の侍女がしでかした責任をとって、罰を受けるとまで言って、しばらく床から離れなかった。
「それでもですっ。しかも、まさか知らず知らずのうちに陛下にまで毒を盛り続けていたなど……っ、首を斬られても仕方のない所業です」
「陛下からの、西充媛様には非はないという言葉もお伝えしたはずですわ。すべては轟尚書令と侍女が悪かったのですから」
「で、ですがぁ……」
「はいはい、この件についてはこれで終わりですわ。金輪際、掘り返しませんように」
「花
どうやら、前回の件で西充媛に懐かれてしまったようだ。
『まるで蝶のように舞い虎の如く侍女を仕留めた。美しくも勇ましいお姿に、わたくし、虜になってしまいました! 是非、花姐姐とお呼びしても!』とは、寝台前で額ずきながら熱く叫んだ彼女の言葉だ。
その熱さに気圧され、つい『はい』と言ってしまった。
彼女については色々と疑って探ってみたが、ひとつも後ろ暗いところは出てこなかった。この謝罪も演技ではなく、心からのものなのだろう。後宮ではとても珍しい后妃だ。
西充媛はキョロキョロと部屋の中を見回す。
「そういえば、花姐姐の宮には侍女がおられないんですね」
「ええ、私、誰かに世話されるというのが嫌いですの。ですから、陛下にお願いして、宮に入るのは必要最低限にしていただいてますわ」
その陛下も自分なのだが。
侍女なんか置かれた日には、皇帝と寵妃が同一人物だとバレてしまう。できるだけ人との接触は最低限にして、食事すら部屋の外に置いておくよう指示していた。昼間は日華殿にいることが多く、無人の部屋に踏み込まれては困るのだ。
(本当なら、西充媛様が訪ねてくるのも拒否したほうが良いんだけど……)
「花姐姐……私は迷惑……でしょうか」
西充媛は肩をすぼめて、上目遣いにくるっとした目で見てくる。
「く……っ!」
幼い彼女にこんな顔をされると、駄目とは言えなくなってしまう。
「十日に一度くらいでしたら……」
「え、五日に一度ですか?」
「十日に……」
「え、三日に一度?」
「……七日に一度でしたら」
「きゃあ! 七日に一度は花姐姐に会えるなんて光栄ですっ」
小さな手で頬を押さえ、嬉しそうにくねくねと身体を揺らす西充媛。
なんか上手くやられた気がする。というか、元寵妃が現寵妃を慕って訪ねてくるという状況は、なかなかの混沌具合なのではないか。
(まあ、七日に一度くらいなら……後宮の情報も色々と聞けるでしょうし。そんなことよりも……)
「陛下の護衛はよろしいのですか、
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