第12話

「あのっ」

 引き攣った声で話しかけてきたのは広輝や美咲と同じクラスである桑原という奴だった。影が薄く、広輝も名前を知っているだけで、他には根暗な奴というような印象しかない。

 その桑原は怯えるように首を竦めながら、広輝に行った。

「話があるんだ」

 広輝は腹が立っていたせいか、いつも以上に鋭い声が出る。

「あ?」

 それを威嚇と勘違いしたのか、桑原は身を震わせて今にも逃げ出したそうにしていた。だがそうはいかない理由があるのか、怯えつつも必死に言葉を絞り出す。

「ちょ、ちょっとで良いから、話したいだ。だから、ついて来て欲しい」

「無理だ」

 広輝は端的に断った。今まで桑原と接点などない。とても有意義な話があるとは思わなかった。だから広輝はさっさと桑原を振り切り、店内へと入ろうとする。余計な人と、関わりたくは無かった。

 しかし次の桑原の一言で、踏み出しかけた足を引っ込めざるを得なくなった。

「君の、お父さんに関わる話なんだ」

 広輝は再び桑原に向き直ると、その顔を鋭く睨みつける。

「なに?」

 桑原が恐怖に肩を竦めた。

「父親の話ってなんだよ」

「こ、ここでは話せない」

 父と母が離婚したのを知っているのは小学校からの幼馴染である朱鷺や美咲くらいである。つまり桑原が適当な話をするのに父の名前を出す訳がない。何か知っている。そう考えるのが妥当だった。

「じゃあさっさと場所を変えろ」

 広輝が言うと、桑原は体を震わせ覚束ない足取りでとぼとぼ歩き始める。

「早くしろ」

 そうやって急かしつつ、辿り着いたのは駅周辺にあるスイミングスクール裏の空き地である。一方に大きなスイミングスクールの壁があり、反対側は線路になっていてフェンスの前には背の高い草が生い茂っている。左右には何もないがそもそも人通りが少ない場所なので、ここで話していれば誰かに見られる心配は無さそうだった。

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