4-7 喜多愛笑の実力(前編)


 二体のBランク喰魔イーターと相対する愛笑。

 愛笑は自身へと飛来する無数の火球に対し、地面から岩の壁を隆起させた。


岩石ロックウォール!」


 隆起した岩の壁は分厚く、降り注ぐ無数の火球を見事に防いで見せた。

 その後、側面から鋭利に尖った何かが回転しながら迫ってくるのを愛笑は視界の端に捉える。

 それに対しても岩の壁を隆起させることで対処する愛笑。

 しかし、回転する物体はまるでドリルのように岩を掘削して壁を突き破った。


 壁を突き破って来た回転する物体を愛笑は後ろへ体を逸らすことで回避する。

 そして、愛笑はその回転する物体を目で追うと自身の周囲に鋭利に尖らせた無数の岩を作り出した。


岩石ロックランス!」


 手を翳し、作り出した岩の槍を回転する物体に飛ばす。

 その物体は飛来する岩の槍に回転を止め、その全容を現した。


「ギャアアア!」


 回転していた物体の正体、それは鳥型の喰魔であった。

 体長は一メートルほどであり、灰色の体色に翼を四枚持っていた。

 その鳥型喰魔は硬いくちばしを持ち、魔法で回転することで先ほどの攻撃を繰り出していたのだった。


 鳥型喰魔は飛来する岩の槍の間を通り抜け、縫うように空を飛んで回避していく。

 そして、金色の双眸で愛笑を視界に捉えると再び回転して愛笑へと急降下していった。


 急降下してくる喰魔を愛笑は魔法で防ぐことなく、その場から跳ぶことで回避する。

 喰魔は愛笑に避けられたことで地面に衝突するかに思われたが、そのまま壁を突き破ったときのように地面の中へと潜っていってしまった。


(地面に潜れるのか………)


 鳥型喰魔が地面の中へと潜るのを確認した愛笑。

 その直後に左側から強い光が放たれるのを目で捉え、そちらの方に目を向ける。


 その先に居る喰魔は獅子の顔を持ち、首から下は人間のような形をしていた。

 紫色の鬣と黒色の毛皮。

 その毛皮の下からも分かるほどに筋肉が盛り上がっており、三メートルの体長も相まってガタイの良さが際立っていた。


 そんな喰魔が両手を頭上に掲げ、その先に自身よりも巨大な五メートル近い火球を作り出していた。


「あれは………」


「なんて大きさだ!?」


 巨大な火球に騒ぎ始める隊員達。

 その火球が放たれれば甚大な被害が出ることは明らかだった。

 そして、離れた場所に居る春達四人も火球に反応を示していた。


あつッ!」


「なんて熱量なの………!」


 吹き抜ける熱波に顔を顰め、額に汗を滲ませる耀と篝。

 それは春と十六夜も同じであり、各々大きく肌が露出している顔を熱波から守ろうと腕で覆い隠していた。


「姉ちゃん………!」


 春は腕の隙間から愛笑の背中を真っ直ぐに見つめる。

 そして、愛笑を呼ぶ声は力強くも微かに震えていた。


 そして、火球に気づいた愛笑はというと逃げるような素振りを一切見せることなく、力強く火球と喰魔を見据えていた。

 そんな愛笑に向かって喰魔は両手を振り下ろし、火球を放った。


「グルアアアア!」


 放たれた火球は岩とわずかな砂で出来た地面に焼き跡を残しながら進んでいく。

 それを見ても愛笑は一切動じない。

 そして、自身へと向かって来る火球に両手を翳すと自身の魔法を放った。


岩石ロック半球蓋ドーム三重層トリプル!」


 愛笑に向かって進む火球を囲うように地面から岩の壁が隆起する。

 そして、火球はドーム状の岩の壁によって完全に覆われる。

 それだけでは終わらず、二枚目、三枚目の岩の壁が同じように岩の壁を包む。

 分厚い三枚の岩の壁が完全に火球を覆い隠した。


 その直後にドーム状の岩の壁が大きく揺れ、それに合わせて周囲に地震のような揺れも起こった。

 それは岩の壁の中で火球が爆発したものによるものだと誰もが理解する。

 そして、火球が爆発したというのに壁には外見的な変化が現れていない。

 つまり、先ほどの巨大な火球が愛笑によって見事に完封されたことを示していた。


「ガッ………!?」


 こんなあっさりと魔法を無効化されるとは思っていなかった喰魔。

 目を見開き、激しい動揺を見せる。

 そんな喰魔に愛笑は高圧的に声を掛けた。


「何をそんなに驚いてるのかな?」


「ッ!?」


 愛笑の声に喰魔は肩をビクつかせる。

 そのとき、ドーム状の岩の壁が沈む様に地面へと消えていった。

 喰魔は自身よりも小さい愛笑を見下ろし、こちらを見上げる愛笑の顔を見る。

 そして、その表情に対して怯えるように息を呑んだ。


「私はBランク隊員。あなたの大きさだけ・・・・・の魔法を防ぐくらい、なんてことない!」


「ギャッ………!!」


 凄む様に自身を見つめる愛笑の力強い目。

 そして、言葉と共に放たれた愛笑の魔力と威圧感に喰魔は思わず一歩後ずさってしまうのだった。

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