4-2 Aランク喰魔討伐作戦会議
先程までとは違い、静まり返った会議室。
その会議室で春、耀、十六夜、篝の四人は室内の一番後ろの二人用の長い机を二席に渡って横並びで座り、春の前の席には愛笑が座っていた。
他の隊員達も春達と同様に席に座っており、静かに会議室の前方を見つめる。
先程までとは違い、張り詰めた空気と緊張感が室内を支配していた。
そんな会議室の前方に立つ魔法防衛隊星導市支部支部長、喜多幸夫。
その表情は真剣そのものであり、漂う空気感からも見る者に更なる緊張感を走らせる。
幸夫は右手に持ったマイクを口元に持っていくと、厳格な声音で喋り始めた。
『それではこれより、緊急会議を行う』
室内にスピーカーから発せられた幸夫の声が響き渡る。
マイクに問題は無く、幸夫はそのまま今回の会議について話していく。
『先日起こった
大きな反応は無い。
それはこの場に居る隊員達が皆、集められた理由について察していることを示していた。
幸夫はチラリと隊員の顔を見渡し、一息間を置くと力強く明瞭な声で話し始めた。
『単刀直入に言おう。今回のこの事件、
『………!!!』
誰かが声を出したわけではない。
それでも、確実に先ほどよりも室内が騒がしくなった。
驚いて息を呑む音。
体をわずかに動かしたことによって発生した衣擦れの音。
緊張を紛らわせようと鼻から大きく息を吸い、吐き出す音。
これらの音が騒がしく聞こえるほどに室内は静かで、緊張感が張り詰めていた。
Aランク以上の喰魔が関わっていると予想していた者達は多い。
それでもなお、大きな衝撃を与える事実であった。
そして、その衝撃は事前に幸夫からAランク以上の喰魔が関わっていると聞かされていた春、耀、十六夜、篝の四人にも同様に起こった。
「「「「………!!!」」」」
四人共息を呑み、緊張から体に力が入る。
春と耀は自然と握り拳を作り、十六夜と篝は腕を組むと自身の腕をつかむ手にさらに強く力を入れ、隊服に皺を作った。
『まずはこの映像を見てほしい』
そう言うと幸夫は右を向き、部屋の隅で席に座る友里に視線を送る。
友里はその視線に頷くと目の前のパソコンを操作する。
すると室内が暗くなり、前方のスクリーンに映像が映し出された。
映し出される映像は暗く、岩しかない洞窟を進んでいくものだった。
やがて映像は狭い岩の通路を抜けると大きく開けた場所に出る。
そして、そこには信じがたい光景が広がっていた。
「オイオイ………! マジかよ………!?」
「嘘でしょ………!?」
「そんな………!?」
その映像に十六夜、篝、耀はその映像に対し驚愕する。
そして、春もまた目の前の映像を信じられないといった様子で言葉を吐き捨てた。
「なんだよ、
映し出される映像。
そこに映るのは、これまでに見たことない数の喰魔の大群であった。
様々な喰魔が開けた場所に所狭しと密集し、整列している。
そして、その中心の天井に佇む巨大な蝙蝠のような喰魔。
この喰魔が他の喰魔達を従えていることは明白であった。
あまりにも悍ましいその光景に、会議室は一気に騒がしくなる。
「なんだこれは………!?」
「これ全部喰魔か!?」
「大雑把に見ても三百体は居るぞ………!」
「これを全部あの喰魔が操ってるのか!?」
次々に驚きの声が各所から挙がる。
そして、映像はその空間を数秒映したところで終わってしまった。
映像が終わると部屋の照明が戻り、室内は明るくなる。
それでも依然として室内は騒がしく、隊員達の動揺が収まることは無かった。
『静粛に』
一言幸夫がそう言うと、次第に隊員達は落ち着きを取り戻していく。
そして、室内が再び静かになると幸夫は話し始めた。
『見てもらった通り、映像に映っていた巨大な蝙蝠のような喰魔が今回の事件の元凶だ。体長は約三メートル、その他の詳細は分かっていないが魔法は操作系統の魔法。前回の事件から分かることは操作した喰魔を進化させることができ、操作した喰魔を通じて新しく喰魔を支配下に置くことはできないということ。自分よりも強い喰魔は操作できないということ。そして、これまで人間が操作された事件が起きていないことから、操作できるのは喰魔だけの可能性が極めて高いということ。しかし、その代わりなのか操作できる喰魔の数は通常のAランクの操作系魔法の比ではない』
幸夫が映像に映っていたAランク喰魔についての情報を淡々と説明していく。
隊員達はメモも取ることなく、幸夫が話す喰魔の情報を頭に叩き込んでいった。
『そして、今の映像に映っていた操作された喰魔の数は約三百。しかし、この映像を撮れたのが二日前であり、この場に居らず狩りに出ていた喰魔を含めると数は現状で
「ごっ………!?」
とてつもない数字に春は目を見開いて言葉を失う。
それは耀達も同様であり、驚愕にその表情を染める。
そして、その動揺は一気に会議室内を駆け巡った。
「五百!?」
「なんだよその数!?」
「あり得ないだろ!」
先ほどよりも一気に騒がしくなった会議室内。
怒鳴るように驚きを吐き出す隊員がちらほらと現れる。
「五百体って………」
「そんな数の喰魔を操るなんて!」
耀と篝も驚きを口にする。
そんな中、十六夜は一人静かにAランクの喰魔について考察していた。
(それだけの数の喰魔を操れるならもっと大規模に行動してもいいはず。いや、ここまで自分では動かず操作した喰魔でちまちまと狩りを続けてたんだ。よっぽどのビビりか慎重な性格をしてるんだろう。けど、そんな奴がこんな大規模に動くなんて………。いや、まさか………!)
『皆が思う通り、この数を放置はできない。時間が経てば経つほどに喰魔の数は増え、脅威は増す。早急にこの喰魔は討伐せねばならない』
十六夜は考察の果てに喰魔の目的に気が付く。
そんなとき、騒がしい室内にマイクを通して幸夫の声が響き渡る。
それに合わせて隊員達は話を聞こうと声を潜めていく。
そして、室内が再び静かになったとき、幸夫は早急に喰魔を討伐せねばならないもう一つの理由について語り始める。
『だが、もう一つ。この喰魔を早急に討伐せねばならない理由がある』
ピリッとした刺すような空気が幸夫より放たれる。
それは幸夫の話を聞いていた隊員達にも伝わり、室内の緊張感は限界にまで高まる。
幸夫の口ぶりから、操作されている喰魔の数以上に恐れている何かがあることを隊員達は察する。
そして、その何かが告げられることを閉口して待っていた。
そして、皆が待つ答えがゆっくりと幸夫の口から告げられた。
『この喰魔は後少しで、
「「「「っ!!?」」」」
幸夫が告げたもう一つの理由。
それは喰魔が最高ランクのSランクへと進化する可能性だった。
その言葉に春達四人と隊員達がその衝撃に息を呑む。
そして、本日三度目となる動揺が隊員達に走った。
「Sランクだって!?」
「今でさえ五百体を操れるのに、Sランクに成れば一体どれだけの数を操れるようになるんだ!?」
先程の比ではないほどに室内は爆発的に騒がしくなる。
喰魔がSランクになるということはそれほどまでに恐ろしい事態であった。
「やっぱりか………!」
十六夜は自身の推測が間違っていなかったことに表情を険しいものへと変える。
そして、十六夜の呟きを近くで聞いていた篝が血相を変えて十六夜の方を向いた。
「やっぱりって………! 十六夜君は分かってたの!?」
「さっきの説明を聞いてな。今までこそこそしてた奴がこんなに大きく動いて、魔法防衛隊員を殺して魔力を奪ったんだ。となると、喰魔の目標は大量の魔力を得ることでの“進化”しかない。支部長や上層部もそう判断したんだろう」
「なるほど………」
「そういうことか」
篝に自身の仮説を説明する十六夜。
その説明を耀と春の二人も聞いており、その説明に納得する。
十六夜が立てた仮説は事実として合っていた。
Aランク喰魔は進化が近いことを感覚的に悟ったことで欲を出し、大胆に行動を起こしたのが今回の事件であった。
『静粛に!』
騒がしい会議室に大きく制止の声を響かせる幸夫。
強い口調に反し、その表情に怒りなどは無い。こうなるのは仕方ないことだと幸夫も分かっていた。
徐々に静かにはなっていくものの、その速度は遅い。時間をかけ、ゆっくりと隊員達が落ち着いたのを確認すると幸夫は再び話し始めた。
『以上の二つの点から、Aランク喰魔の討伐は急務となる。よって
そう強く宣言する幸夫。
その宣言に騒ぐ者は居ない。
これまでの会話の流れからそうなることは分かっており、魔法防衛隊員として放置できるものではなかったからだった。
それは隊員達の表情にも表れており、皆が強い決意と覚悟を持っていることを感じさせた。
そして、春達四人もそれは同様であり、真剣な表情で幸夫のことを見つめるその姿はとても中学生とは思えぬほどの覚悟を感じさせ、強い気迫を放っていた。
幸夫は隊員達全員の表情を見渡す。
隊員達の決意と覚悟に満ちたその表情に、自身の胸中に宿る魔法防衛隊員としての魂を燃え上がらせた。
『それでは作戦を伝える!』
―――そして、翌日。Aランク喰魔討伐作戦が始まる。
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