転生の果て、再び織りなす愛の紋章

青木タンジ

第1話 導入

朝の光がカーテンの隙間から漏れ、美咲の顔を優しく撫でる。彼女は夫と共に朝食を終え、穏やかな微笑みを交わす。食卓には二人の幸せが満ち溢れていた。彼がいつものように「今日も遅くなるかもしれない」と言い残し、家を出る。


美咲は彼の後ろ姿を見送りながら、心地よい日常にほっと息をつく。しかし、その平穏は長くは続かなかった。彼が忘れていった携帯電話が、突然鳴り始める。画面に映る名前を見て、美咲の心は一瞬で凍りついた。


「これは...?」彼女の手が震え、携帯を手に取る。画面には、夫と見知らぬ女性の写真が映し出されている。「見てはいけない」と心が叫んだ。でも、指は勝手に動き、画面をスワイプした。そこには、彼と見知らぬ女性の写真。私の心臓が凍りつく。


「なんで?」涙が止まらない。信じたいけど、目の前の現実がそれを許さない。携帯を手に、彼を問い詰めたくても足が震える。


部屋の中には、彼の声と彼女の笑い声がこだましていたはずが、今は重苦しい沈黙だけが広がる。美咲の心は混乱し、裏切られた感情が渦巻いていた。彼への愛情が疑念に変わり、信じられない現実に立ち尽くす。


彼が帰ってきた。何気なく話を始めるけど、私の心はどこか遠くに。ついに、我慢できずに「これ何?」と携帯を突き出した。


彼の顔色が変わる。「ごめん、説明する」でも、その言葉が耳に入らない。すべてが嘘に聞こえる。信じたいけど、信じられない。


「もういい!」と叫んだ。彼が何か言おうとしても、もう聞きたくない。心はもう疲れ果てていた。


その夜、私は一人ベッドにいた。思い出が浮かんでは消える。幸せだったあの時間は、もう戻らない。涙が枕を濡らす。


「どうして...」つぶやきながら、その日は眠りに落ちた。


夫の裏切りが明らかになってからの日々は、美咲にとって苦痛の連続だった。かつての愛は破片となり、彼女の心に深い傷を残した。夜ごとの涙、日中の無力感。彼との思い出が、今や彼女を苦しめる鎖となっていた。


ある晩、涙にくれる美咲は、自分の部屋で一人静かに目を閉じた。


すると突然、部屋が明るい光に包まれ、彼女の体が宙に浮かび上がる。目を開けると、彼女はもはや自宅ではなく、全く異なる世界にいた。空は紫と金色に輝き、大地は緑豊かな草原となっていた。遠くには巨大な城がそびえ立ち、空を飛ぶ不思議な生き物の群れが見える。


「ここは...どこ?」美咲の声は驚きに満ちていた。彼女の周りには、魔法のような輝きを放つ石や、光る水の流れがあった。彼女は立ち上がり、この新しい世界を探索し始める。


美咲が歩いていると、突然、空から巨大な鳥のような生物が現れ、彼女に向かって飛んできた。彼女は恐怖に震えながらも、何とか逃げようとするが、足はもつれ、転んでしまう。


その時、見知らぬ男性が現れ、彼女を助ける。彼は剣を振るい、巨大な鳥を追い払った。彼の名はレオナルド。彼はこの世界の王子であり、美咲が転生したことを知っているようだった。


「あなたは、違う世界から来たのですね」とレオナルドは言う。彼の目は優しく、美咲を見つめる。彼の顔は、どこか美咲の夫に似ていたが、その瞳には深い慈愛が宿っていた。


美咲はこの新しい世界で、新たな冒険が待っていることを感じ取った。彼女の心は、まだ過去の痛みを引きずっていたが、この異世界での新たな出会いが、彼女に希望の光を与え始めていた。

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