第15話 父の笑顔とパンダの微笑み
ひなたはリビングで牛乳を飲みながら
テレビを見ていた。
テレビでは東京の上野動物園にいる
パンダの特集が放送されていた。
「あー、懐かしいね。
ひなた、お父さんがまだ生きていた時、
一緒にここの上野動物園行ったの
覚えてる?」
「うん。もちろん覚えているのよ。
小学6年の頃でしょう。
シャンシャンだっけ。
見に行ったね。
あれ、もう中国に
返還されちゃったんだよね。」
ひなたはお茶を飲む母とのんびり
パンダの話で盛り上がった。
テレビの横の棚には、
父の遺影とろうそく、お線香が
置いてあった。
ひなたが中学1年になった頃、
朝起きた時に母の悲鳴で目を覚ましたのを
覚えている。
いつも通りに寝ていたはずの父の
心臓は動いていなかった。
病気ひとつしてこなかったのに、
心労がたまっていたのだろうか。
心不全で亡くなっていた。
またいつもの朝が来ると思っていた。
朝ごはんを食べる時に、
お箸で鬼のポーズを作り、
母をディスっていた。
すぐ怒る母を見て、
喜ぶ父が仲睦まじいなと見つめていた。
仕事は真面目に寄り道しないで、
直帰だった。
宅飲みでお酒は済ませていた。
家族のことを第一に考えてくれていた
父だった。
優しくて、同僚にも慕われていた。
誰にも毒吐くこともなかった父が
天国に行ってしまった。
当たり前の日常がないことを
その時、初めて知った。
お葬式では、父が亡くなったことを
実感できなかった。
まだ近くにいるんじゃないかって思う。
高校生になって、
不意にぱんだ先生が現れた。
時々、言葉のはしはしに
父の口調に似ていたことがあった。
ひなたは、小学生の時に撮った
上野動物園の写真アルバムをペラペラと
めくった。
頭にパンダのかぶりものをして
ニコニコしていた父が写っていた。
「ねぇ、母さん。
父さんってパンダのこと
めっちゃ好きだったの?」
アルバムの写真を母に見せた。
「うん。そうよ。
溺愛よ。昔から行ってたんだって。
パンダ愛は激しいわよ。
お父さん。
今頃、パンダに囲まれた生活
してるんじゃないかしら。
天国で。」
母は、窓の外に飛行機雲をぼんやり
眺めていた。
「え、もしかして…。」
ひなたは、自分の部屋にいそいで
戻って確かめた。
ぱんだ先生がもしかしたら
いるかもしれない。
確かめたかったことがあった。
(よぉ!)
ぱんだ先生が手をあげて
ピロピロ笛を吹いた。
勉強机の椅子に座って、
くるくると回っていた。
「ぱんだ先生!!」
ひなたは、そう叫んで
ぱんだ先生にしがみつこうとした。
すると突然、白い光に包まれた。
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