第7話 初めての殺し合い

 僕が学園に転入してから3日目。この日は魔法系の授業は少なくほとんどが知識の授業だった。キリトになぜ剣技の授業がないのか聞いたところ、「剣技の担当先生が怪我で授業できないから。」だそうだ。僕からしたら助かる。せめて身体強化魔法を覚えてからがいいなと願った。

 だが、知識の授業もなかなかおもしろい。平民では一生知らないようなことをたくさん知れる。ただその度に平民と貴族の差を思い知らされる。この国では差別が少ないはずなんだけど、こういった知識の差などはやっぱり出てしまう。

 だからと言って今の僕にできることはないので、ちゃんとした勉強ができない平民の分、僕が頑張ろうと思った。



 その日の授業もいつも通り終わった。いつも通りと言ってもまだ3日しか経っていないが。でもこの学園に来てから色々あったし、長いといえば長いのかもしれない。

 そして僕は今からソルニャと特訓をする。なんとしてでも昨日できなかった身体強化魔法を剣技授業が始まるまでに使いこなせるようにしたい。

 僕はソルニャよりも先に訓練場に行き、1人で昨日の続きをしていた。しかし、なかなかできない。あと少しでできそうな気もするが、ギリギリのとこで失敗してしまう。

 それにしてもソルニャ遅いなぁ。もう来てもおかしくない時間だけど。


(アレクくん、逃げて!)


 ソルニャの声が聞こえた気がした。だが、周りをみても誰もいない。気のせいなのかな?


ト「友達が攫われたと言うのに呑気に特訓ですか。」


 声が聞こえ、後ろを振り向くと知らない男が2人いた。その男たちは黒い服にフードを被っていて顔が良く見えない。さらにかなりの魔力を保有している。

 しかし、そのおかげでこの人たちが悪い人だと言うことがすぐにわかった。


僕「どう言うことだ!友達ってソルニャのことか!」


ト「名前なんか知りません。ただあなたと昨日一緒に特訓してた女の子を攫っただけです。」


 やっぱりソルニャだ。どうしよう。今の魔法も使えない僕になにができるのだろうか..。

 そうだ!学園長や先生にこのこと知らせるんだ。そうすればなんとかなるはずだ。

 そう考え、男たちから逃げるように走った。


ト「そうはさせませんよ。アーティファクト起動!」


 その瞬間僕は何もない、そして果てしなく広い白い空間に飛ばされた。そこにはソルニャもいた。幸い何もされておらず無事だったようだ。


僕「大丈夫かソルニャ!」


ソ「私は大丈夫。でもこの空間。おそらくあの黒い服の男が持ってるアーティファクトが作り出した空間なんだと思う。脱出方法はおそらく、アーティファクトの破壊もしくは使用者の殺害のどちらかだと思う。」


 アーティファクトは授業で習ったので僕でもわかる。現代の魔道具とは違い、大昔に失われた技術で作られた魔道具で、現代のものとは比べ物にならないほどの性能らしい。

 だいたいのアーティファクトは授業で習った通りなら効果の打ち消し方法は、ソルニャの言った通りであってると思う。


僕「わかった。2人で協力して頑張ろう。」


ソ「アレクくん。ここは私に任せて。」


僕「なんでだよ。それじゃ君が危険じゃないか。」


ソ「アレクくんはまだ魔法をうまく使えないじゃない。それに私だって強いのだから安心して。」


僕「うん..。わかった。」


 たしかに今の僕には何もできない。魔法を制御できないから下手に使うとソルニャにまで被害が及ぶかもしれない。


ト「お話は終わりましたか?おやおや。あなた1人で来るのですか?あちらの少年は魔力値は高いくせに随分臆病なんですね。」


ソ「あなたたちなんか、私1人で十分だからだよ。」


マ「調子に乗るんじゃないぞ小娘。お前なんか私ひとりでも十分だ。トロージャ様、あいつは私に任せて頂けないでしょうか?」


ト「あぁいいぞ。マンドンよ。あの小娘を殺してこい。私は後ろから見ておこう。」


マ「ありがとうございます。では行くぞ小娘!」


 そう言うと、マンドンという男がソルニャの方へ岩の魔法を放つ。しかし、ソルニャはその魔法を簡単に避け、火の魔法を放つ。その火は大きくとても熱い。熱気が僕にも伝わってくる。

 すごい。これがソルニャの実力なんだ。僕なんかとは比べ物にならないほど強い。

 しかしマンドンも強い。ソルニャの火魔法を同等の威力を持つ水魔法で相殺した。


ト「早くしろマンドン。さっさと動けないようにしろ。」


マ「はい!」


 そしてマンドンは岩魔法をもう一度使う。さっきの魔法よりも数倍の威力がある。しかしソルニャは身体強化魔法で体を強化し、その岩を砕いた。


ソ「そんな魔法じゃ私は倒せないよ。最上級魔法ヘルファ」僕「危ない!」


 助けようとするが間に合わなかった。地面から出てきた岩がソルニャを突き刺す。


僕「ソルニャ!大丈夫か!」


マ「そいつも生贄として捧げれるように急所は避けておいたからしばらくは死なんぞ。まぁ生贄に捧げるから同じだろうな!」


ト「ではさっさとお前を倒して生贄に捧げる。そして俺たちは邪神ボロス教団の幹部に認められ莫大な富をえるのだ!」

 

僕「富?ふざけるな!そんなことのためにソルニャを傷つけたのか!」


ト「いいじゃないか。誰を傷つけようが自分が得すればいいんだよ!それに俺たちが捧げる生贄は邪神ボロスの復活に繋がるんだ!」


 邪神ボロス?いや、今はそんなことどうでもいい。ただこいつらを倒してソルニャを助けるんだ!

 でもどうしよう?僕には魔法が制御できない。どのくらいの威力になるかわからないしリスクが大きすぎる。身体強化魔法か?それしかない!


僕「身体強化魔法!」


 魔力を少し放出し、その魔力を体に引き寄せ纏わせる..。くそ!失敗した!

 失敗した隙にトロージャが僕に岩魔法を放つ。


僕「うっ!」


ト「魔法が高いだけで何もできない小僧が調子に乗るな!どうせ生きていても誰も守れないんだろ!」


 その通りかもしれない。でも、僕には可能性があるんだ!神官様やソルニャは僕が強くなって、みんなを守れる人になってほしいと思っているはずだ。

 もっと集中するんだ!

 もう一度身体強化魔法に挑戦する。しかしまた失敗する。今度はトロージャ、そしてマンドンから岩魔法を放たれる。流石に今の僕に2人の魔法を避けるのは難しいらしく、1人分の魔法は避けれたが、もう1人の魔法は頭に掠った。

 頭から血が出てくる。大量出血で倒れてしまいそうだ。でもここで倒れたらソルニャを助けられない。

 どうやったら魔法を使える?なぜ失敗する?

 そこでふと思いつく。

 僕が持ってる大量の魔力を一気に放出したらどうなるんだ?

 僕は今まで制御しようと必死で放出する魔力を制限して少量だけ放出するように心がけていた。

 でも考えてみると、小さいものを動かすより大きいものを動かした方が簡単なのかもしれない。魔力も同じように大量に出した方がコントロールしやすいのかもしれない..。

 失敗すれば確実に負ける。だがこのまま成功する見込みのないことをしていても意味がない。

 この最後のチャンスに賭けるしかない!

 僕は持っている魔力を大量に放出した。周りの空気が揺れているのを感じ取れる。そしてあいつらの顔色も変わった。


ト「なんなんだよ?!この魔力は!」


マ「あいつ、何がする気です!早く倒しましょう!」


 2人が岩魔法を放とうとする。

 しかし僕はそれよりも早く大量の魔法を体に引き寄せ、そして纏う。

 僕の体が光り出す。成功したみたいだ。

 まずは2人が放った魔法を避け殴りかかろうとする。しかし速すぎて2人を通り越したみたいだ。


ト「ま、まさか。あれほどの魔力で身体強化魔法を行ったのか..。化け物だ..。」


僕「お前らには死んでもらう。」


 僕は人を殺したことなんかない。だが今この状況で殺さなければまた誰かが犠牲になるかもしれない。だから躊躇うことはない。


僕「これで終わりだ!トロージャ!マンドン!」


 今度はうまく距離感を掴み、トロージャに全力のパンチを喰らわせた。


ト「う、あぁ..。」


 アーティファクトの使用者であるトロージャが死んだおかげで僕たちは白い空間から抜け出すことができた。


マ「嘘だろ?トロージャ様をあんな簡単に殺すなんて..。この化け物め!」


 僕がマンドンにとどめを刺そうとするが、急に力が抜ける。今までに大量の魔力を使った経験がないせいか、まだ魔力はあるはずなのに、魔力の喪失感で動けない。

 僕はその場で倒れてしまった。意識はあるが何もできない。


マ「な、なんだよ。これで終わりか。私はなんて運がいいんだ。トロージャ様は死んだが、今お前らを倒して生贄として捧げれば結果は同じだ。与えられる富が増えたと考えたらなんて素晴らしい結果なんだろう。」


 やっぱりこいつらはクズだ。仲間が死んでも何も思わない奴らなんだ。

 でも本当に今回はやばいかもしれない。意識も失いそうになっている。


「こんなところで何をしている侵入者よ。」


 この声はまさか!体を動かさないせいで後ろを振り返ることができないが、俺が思っているあの人ならこの状況をなんとかできるかもしれない。


マ「ははは、忘れていた。ここにはゴルン・マフィスト。かつて『伝説』と呼ばれていた魔剣士がいたのだった..。」


長「懐かしい二つ名だね。それよりここはどう言う状況なんだい?」


マ「そ、それは..。」


長「いや、いい。この状況を見れば誰でもわかる。〈拘束〉。」


 やっぱり学園長だった。そしてマンドンは拘束された。


長「君にはいろいろ聞かせてもらうよ。さて、まずはソルニャだね。」


 学園長はソルニャに回復魔法を施した。

 これでソルニャは安心だ。僕はこんな状態だけど、結果的には守ることができた。

 良かった..。


長「アレクくん。よく頑張ったね。君はもう休んでいいよ。僕が君たちを医務室に運ぶから。」


僕「あ、」長「無理に喋らなくても大丈夫だよ。」


 「はい。」と心の中で頷き、僕はそのまま気を失ってしまった。

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