第28話 事件はまだ、終わっていない

「夜、学校で張り込むから準備してきて」


 そんな横暴な林檎の提案により、私達は寝泊まり用のグッズを家から集めに一度帰宅した。

 母親には「あらぁ、友達の家にお泊り?」「楽しそうにしちゃって」などと揶揄われたが断じて楽しみになどしていない。あんな湿度の高い女たちと一緒に一夜をすごしたら顔にカビが生えそうだからね。タオルは多めに持っていこうかしら。……とりあえず、トランプだけは鞄に忍ばせておいた。


 部室は陽が暮れかかっているにも関わらず電気が消してあった。

 既に陽芽と林檎は私より先に到着していたらしく、暗闇の中二人で無言でトランプのスピードをして遊んでいた。無言でカードを置く音だけが部室に響く。


「白熱してるわね、トランプなんて持ってきてハシャぎすぎじゃない?」


 二人は競技に夢中で言葉を返す余裕もないみたいだ。私はその隙にそっと自分が持ってきたトランプを鞄の奥に隠した。


「ってかなんでこんな暗いのよ電気つけるわよ」

「だめ、今闇トランプ中だから」

「文字通り過ぎる競技」

「あ、ネムりんが話しかけるから手がにぶった」

「よし、あがりです」


 私の差した水によって勝負は決したようだった。それは悪いことをしたな。まぁ負けたのが林檎なら、いいか別に。


「林檎先輩、袖はまくった方が良いでしょ。全力の林檎先輩と勝負をしたいのですが」

「ふふーんこれはハンデだよ」

「負ける時の言い訳づくりですかなるほど」

「そもそも、ネムりんが話しかけなければ袖ありでも私が勝ってたし」


 二人とも随分負けず嫌いのようだ。こんな奴ばっかり集まったから諦め悪くいなくなった男の行方を追う団体になってしまったんだろうな。


「さて、諸君。なぜこんな時間に部室に集めたのか知りたいかい?」


 机の上のトランプを片付ける陽芽を横目に、林檎が変な口調で場を仕切り始めた。


「今日ずっと教えろって言ったじゃない。もったいぶってないで教えなさいよ」

「そうですよ。答えによってはもう帰りますから」


 私達がさらに林檎に顔を近づけて詰めると、林檎は私達二人の口にそっと口に人差し指を当て、「しー」と告げた。

 パタン、パタン、と足音のようなものが廊下に響く。上履きの音ではない。


「かくれて」


 林檎にささやかれた通り、私達は荷物を持って、本棚の後ろに体育座りをして息をひそめた。

 何が何だかわからないが、用務員さんが来たのを察して隠れている状況ということだろうか?じゃあなぜわざわざ学校集合に?陽芽も同じことを思っていたようで林檎をじとっと睨むように見つめていた。


「その理由は、これからわかると思うよ」


 林檎が小声でそう言った瞬間、扉がガラガラと音を立てた。ペタペタと足音は部室の奥に進んでいく。

 警備員か戸締りの先生が点検に来たのだろうと思った矢先、聞こえてきたのは退室する足音でも鍵を閉める音でもなく、パラパラとアルバムをめくる音だった。

 どういうこと?答えを知っているのであろう林檎を見る。案の定林檎は得意げな顔をしている。何を考えているのか全くわからないが、どうやら、林檎が一人でしていた推理はビンゴだったらしい。


 暗くてよく見えないが、その人間はやがて一冊のアルバムを、懐にいれ、そのまま方向転換をした。


「お花見のアルバム?」


 林檎が、ささやき声などでもなんでもなく、普通の声で、発声をした。

 普段からボソボソとしたしゃべり方をする、どちらかというとウィスパーボイスに分類される声が、この瞬間は静かな部室に鈴を鳴らしたようによく聞こえた。


 その人間はバッと振り返って電気をつけた。暗闇でぼやけていた輪郭が鮮明に照らし出される。その人物は。


「乙都!?」


 乙都だった。私達は思わずずらずらと本棚の裏から出る。


「お前ら、なんでここに……!?」


 林檎は、意地悪な笑みを浮かべながらゆらりと乙都に近づいた。


「乙都ちゃんが欲しそうなアルバム、机に出しておいたよ」

「……」


 乙都は自分の負けを悟ったように、今まで見たことないほど余裕が無さそうに後ずさった。


「ちょっとどういうことよ!説明しなさい!」

「なんで乙都先生がそのアルバムを持っていこうとしてたんですか?」


 私と陽芽は事の次第がまるで飲み込めず、どちらに説明を求めればいいのか分からずに、交互に林檎と乙都を見やった。

 しかし、もうここは探偵と犯人の世界のようだ。乙都と林檎は互いだけを注視し、私たちはその外縁に取り残されているようだった。


「お花見のアルバムの存在、覚えてなかったんでしょ。酔っ払ってたもんねぇ乙都先生」

「……お前、どこまで知ってんだ」


 昨日、林檎に恋人の有無を暴かれたときとは比べものにならないほど、乙都は焦慮に駆られているようだった。

 そんな乙都を逃がさないとでも言うように、林檎はまた一歩、ゆっくり足を踏み出す。真実に近づくように。


「ねぇ、乙都先生、同棲してた彼女ってさ」


 そして、すべてを覆す真実を、静かに口にした。


「あーちゃん、任曉 泡歌ちゃんでしょ」

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