12.警視庁戸山署のヒラダさんへ
貴方は犯罪者だ。
警視庁戸山署もまた最悪の犯罪者集団だ。イカれたカルト集団であるD群を野放しにしようとしているのだから同罪である。
警察が頼りにならないのだから注意喚起する。東京にお住まいのみなさん、特に女性のみなさんはお気を付けください。今東京に安全はありません。
警察に言っても何の役にも立たなかった。以下、事例としてみなさんと共有する。
本日朝10時、戸山署に行った私を迎えたのがヒラダさんだった。
彼はまず筆者を見るなり、鼻先で笑った。最初はただ鼻息の荒い人なのかな、と思っていたが、後で笑われているのだとわかった。それがすごくよくわかる程の大きい鼻を持っている。体も大きかった。もみあげが長く、少し白い。覚えている彼の特徴はそれだけだが、街で会った際など気を付けて欲しい。
筆者はとても上手く話せたはずだ。スマホからカクヨムのページと、Googleのスプレッドシートにまとめた表を交互に見せつつ、論理的に解説できていた。本稿と同じような喋り方ができて、あんまり噛まなかったのに。
ところが。ところが、だ。
ヒラダさんはまだ話の途中で、筆者を手を振って制す。ちょうどこの街で、新宿で起きている連続誘拐殺人の話をようやく本題に切り込んだ辺りだったのに。それから一つ頷き、しゃべり出した。
「なるほど、それは大変ですね!」
何が大変かもまだわかってないくせに。
それから彼はこちらに色々質問してきた。地元はどこかとか、今朝は何を食べましたかとか、学生かとか、今回の件と何も関係のないことである。
不審に思いつつも答えを返していると、彼はそのたび鼻先で笑った。愛想よく振舞おうとしているが、こちらをバカにしているのがバレバレである。
そうして何時までも雑談みたいな話をさせられて本題に戻れず、10分ほどが過ぎ。やがてヒラダさんの意図がわかった。
彼はこちらを探っている。筆者の頭がおかしいかとか、何か薬をやっているんじゃないかと調べていたのだ。こちらの話なんて最初から聞く気がない。
精神病んでるからって、働いていないからってバカにしていたのだ。
ふざけてる。
精神が健全で就職してるのがそんなに偉いのか。
そのことに気付いて、顔が一気に熱くなって。
額から汗が出て、それでも耐えられなくて。
筆者は泣いてしまった。
ヒラダさんは目を抑えて体を震わす筆者を見るなり、鼻先で笑う。
「ふっ、どうしたんですか」
その後のことは覚えていない。
気付いたら家路に就いていた。
以上が、今朝のあらましである。
それから17時過ぎまで、ヒラダさんに鼻先で笑われたことが何度もフラッシュバックして何にも手に付かなかった。しかし、夕食を作っておかないと怒られると泣き止んでから、頭が急に冷める。
ヒラダさんはおかしい。
連続誘拐殺人は重大な案件のはずだ。神出鬼没なD群に翻弄されて、捜査も進んでいないはずだし、マスコミや市民からの突き上げも激しいものになっていると思われる。
それなのに、あの態度はなんだ。筆者の持っている情報は喉から手が出るほど欲しいはず。あんな無碍に扱われる謂れはない。
ここまで書いてきて気付いたが、おかしいと言えば、初対面から鼻先で笑ってきたこともだ。筆者は身なりは気にする方で、服装も変なものではない。何か理由がある?
もしかして、ヒラダさんはこちらのことを最初から知っていたのか。
筆者は現在買い物ぐらいしか街に出ないし、ヒラダさんとの面識はない。生まれてから一度も警察のお世話になったことも無ければ、その手の悪い親族も知り合いもいない。心当たりがあるとすれば…可能性は一つだけ。
ヒラダさんは、D群。
これは恐ろしい事実になる。この国最大の治安維持機構の中に敵性分子が紛れ込んでいるのだ。同時にとても惜しいことでもある。ついにD群と直接対面できたのに、筆者の心の弱さのせいでむざむざ逃してしまった。なんて愚かなことを。
冒頭で、ヒラダさん及び警視庁戸山署は犯罪者だと書いた。これは最初比喩のつもりであったが、どうやら全くの真実だったらしい。筆者の力は弱く、拡散力のない本稿にもほとんど価値はないと思っていた。しかし、この恐るべき事態を伝えることができただけ、意義はあった。
東京にお住まいのみなさん!
今すぐ逃げてください!
警視庁戸山署はD群に乗っ取られています!
ここに安全はありません!
今すぐ逃げてください!
筆者は…それでもやらないといけないことがあるのでここに残る。
自分一人でも、D群は倒さなければならない。
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