第15話 涙枕

「沙由里、今日は会えないんだ。ごめんね。」


 昔のセフレたちとは会えない日々が続いていた。そんな私は、男性の肌が恋しくて、メタバース渋谷で、ふらふら夜の繁華街を歩いていたの。そうすると、若い男の子に声をかけられて、一緒に飲もうよって誘われた。


 まあ、いいかなって思って、ついていき、朝起きるとその男性が横で寝てた。次のセフレでいいんじゃないのなんて思って、朝食を近くのカフェで一緒に食べて、連絡先を交換して別れたの。


 数日後、自分の部屋でパーティーやるから来ないと誘われた。どうせ、夜は暇だし、行くかって、軽い気分で参加してみたわ。


 メタバース渋谷で、指定された松濤の住所に行ってみると、大きな1軒屋で、高い塀に囲まれて中は見えなかったけど、いかにも高級住宅って感じ。ベルを鳴らすと、門は開いて、玄関には、この前の男性が待っていた。


 その男性と一緒に部屋に入っていくと、庭で男性2人が先に飲んでたわ。海外みたく、庭にはプールもあって、プールサイドで、ピザとかアヒージョとかの料理と、ビールとかワインといったお酒がテーブルに並んでて、自由にどうぞって感じ。


「お〜、きたね。先に始めてるよ。」

「こんばんわ。今日は4人飲みなのね。よろしく。」

「沙由里さんだね。聞いてるよ。とっても素敵な女性だって。」

「ありがとう。嬉しいわ。」

「かわいいね。まず、座りなよ。仕事は何してるの?」

「普通の会社員よ。つまらない毎日。」

「俺たち、大学生でさ、みんな親が金持ちで、こいつなんか仕事したくないからって、3年も留年しているんだよ。信じられる?」

「お前だって、同じだろう。」

「俺たち、みんな親がお金持ちで、お金に困ってないから、学生でも、こんなプール付きの1軒屋に住んでるんだ。」

「メタバースでも、マンションじゃなくて、こういう広い土地で1軒屋って、結構高いんだよ。ここで、3人でシェアハウスして暮らして、毎晩、パーティーとかやってさ。人生を満喫してるんだ。」

「それは贅沢ね。こんな生活、憧れちゃう。」

「まあ、飲もうよ。」


 何を話したか覚えてないけど、2時間ぐらい、大騒ぎしていっぱい飲んだの。久しぶりに男性に囲まれて楽しかった。みんな、私のこと、かわいいって言ってくれるし。変に邪魔する女もいないから、私はお姫様だもの。


 結構、飲んだかなって思った時だった。いきなり、ソファーで、スカートを脱がされ、両足を2人の男性に持ち上げられて、パンツをナイフで切られた。


 私は男性の手を外そうとしたけど、男性の力は強くて、ナイフを持ってるし、怖くなって抵抗ができなくなっていたの。


「嫌、やめて。こんなの嫌。」

「お前、こういうの好きだろ。」

「だめ、あれ、どうしてスイッチ、切れないの?」

「それは、スイッチを切れなくするデバイスを持ってるからだよ。知らなかった? 違法だけど、結構、出回ってるって聞いてるけどな。だから、このメタバースから消えることはできないんだよ。」

「嫌、入ってる。痛い。やめて。」

「メタバースだから子供もできないし、失うものなんてないじゃん。お前も、気持ちいいんだし、好きだろう。」

「こいつ、パイパンじゃん。あそこにあるほくろが丸見えだ。なんか妖艶っていうか、もえるよな。」

「胸も大きいし、上玉じゃないか。」

「やめて。」


 私は、3人のおもちゃにされたあと、何も考えられなくなっちゃって、裸のままプールサイドに横たわっていた。どうして、こうなっちゃうの。私は、エッチが好きなんじゃない。男性に包まれて、愛されてるって感じたいだけなのに。


 それから5分ぐらいした時かな、男性たちが、編集が終わったとの声が聞こえた。何のことかと聞いてると、私が、やらせてあげるからお金をちょうだいって言ってる声が聞こえた。私は、横にあったバスタオルを体に巻いて立ち上がった。


「何やってるのよ?」

「お前が、淫らな女だっていう動画だよ。悪いけど、お前の音声も勝手に変えさせてもらって、今日は、お前から誘ってきたということにしたんだ。」

「俺たちの顔は消してるし、この女のあそことかばっちり映ってる。」

「いい出来じゃん。こりゃ、性悪女の現実とかのタイトルにするか。それにしても、リアルでいい感じだ。」

「なんで、そんなことするのよ。」

「そりゃ、お前を脅すために決まってるじゃないか。お前、本気で俺が好きだなんて思ってたんじゃないよな。お前みたいなおばさん、好きになるはずないじゃないか。お金を巻き上げるために呼んだんだけど。そんなことも気づかずに、ホイホイくるなんて本当におめでたいというか。まあ、年下の若い男性と楽しんだだけでも、いい経験をしたって思いなよ。」


 完全にはめられたのね。私は、頭が真っ白になり、どうしていいか分からなかったので、横にある、男性のTシャツとズボンをとってはき、その家から逃げたの。そして、しばらく走ったら、さっきのデバイスの圏外になったのか、消えて自分の部屋に戻ることができた。


 でも、どうしよう。あれが、ネットにアップされたら、私はどうなるの? そんな不安に押しつぶされそうな日々が続いたあと、あの男性からメッセージがきた。動画を公開されたくないなら500万円払えって。


 そんなお金持ってないし、これって犯罪だよね。どうして、何もしてない私が被害を被らなければいけないの?


 数日悩んだ後、私は、警察に被害を訴えることにした。メッセージを送ってきた男性はネットの運営事務局に聞けば誰かわかる。その人から、こんな内容で脅されたって。


 警察からは、1週間ぐらいしてから返事がきた。先方に確認したところ、私が行ったのは売春行為であって、動画も手を入れた跡が見つからないので、事実そのもの。だから、先方に問題はないというものだった。


 でも、脅迫メッセージはどうなるのって言ったら、そんなメッセージは確認できなかったって。どうも消されてるみたいで、それ以上言うなら、偽造で私が犯罪者になるって言われたの。


 そういえば、あの男性たちの親たちは金持ちとか言ってたから、警察に裏で手を回したかもしれない。


 私は、涙を流して強姦されたって叫んだんだけど、警察は全く取り合ってくれなかった。そして、目の前の警察官は、個人的な意見だけどと言ったうえで、金目当てで付き合ったんだろうけど、付き合う人は選んだ方がいいと言っていた。そう思うんだったら、助けてよ。


 そして、警察から帰る途中、メッセージが届いた。お前の考えはわかった。公開させてもらうって。そして、書かれてたサイトを見てみると、ひどい動画がアップロードされていた。とても見てられない。私の見られたくない姿が、はっきりと見えてる。


 あそこのほくろとかの声も聞こえて、そのほくろや、その周りもはっきりと映ってる。とても、顔を上げて道を歩くこともできない。


 そんな時、会社の社長から連絡がはいった。


「河合さん、あなたが、こんな淫らな人だとは知らなかった。当社は、クリーンなイメージで売ってるんだから、あなたのような人が採用を担当しているなんてわかったらマイナスだ。今日、辞めてもらう。」

「どうして、こんなに早く知ってるんですか?」

「そこが問題じゃないだろう。問題は、河合さんが売春をしたということだ。」

「あれは、フェイクなんです。私は強姦されて、フェイク動画で脅されて、そして公開されて、私は被害者なんです。」

「そういうことは警察に言ってよ。それが事実かどうかが問題じゃなくて、そう思う人たちがいれば、当社に悪影響を及ぼすということなんだ。この退職届にサインしてくれ。これまでの協力に感謝して、退職金だけは出すから。」


 私は、それ以上、言い返すことができずに、退職届にサインして会社を去った。そして、仕事がないと生活できないから、仕事を探したわ。でも、どの会社も、あの動画を知ってるみたいで、採用には至らなかったの。


 それで、このキャバクラに流れ着いたってこと。なんか、ここに来る時も、多くの人があの動画を知ってたみたい。


「あなたが、あの淫乱女なの。まあ、否定はしないけど。お金って、いいものね。だから金持ち息子とかゲットしたいって気持ちもわかる。でも、相手が悪かったわ。」

「私、そんなんじゃない。強姦されて、フェイク動画が公開されたの。私は、何も悪いことなんてしてない。」

「まあ、ここにいる女なんて、みんなそんなもんよ。でも、淫乱女って笑っちゃう。よくある言葉だけど、あなたのほくろとかも含めて、あの時、だいぶ話題になったものね。まあ、あのシーンって、動物のメスっていうか、グロテスクで気持ち悪かったけど。」

「あれは消したい。」

「もうネットで出回ったら無理でしょ。諦めなさいよ。ほら、お客がきた。盛り上げてね。」


 私を指名するお客はいずれも、あの動画を知って、私を笑いものにする。あのほくろを見せてくれないとか。そして、私は、ヘラヘラと笑いながらごまかすしかない。お金をもらって生きていくために。


 どうして、こんなになっちゃったんだろう。そういえば、昔は1人が楽でいいなんて言ってたけど、こんなことになって、相談できる人が誰もいない。私は、本当に1人だったんだって思い知らされた。


 セフレも、その時だけの付き合いで、友達でも彼氏でもない。そういえば、この前、セフレの1人から、ほくろをもう1回見せてくれって連絡がきた。500万円くれるなら、いいわよって、会うつもりないから返事したの。そうしたら、そのことまでネットに出回ってる。


 もう、誰もが、私のことは、金しか興味のない淫乱女としか思ってない。こんなのって、1年とか経てば、みんな興味も違うことに変わって、私のことなんて忘れるわよね。でも、あと1年って、私の心は持つかしら。


 セフレだけじゃない。女友達もいない。そういえば、昔、莉子といろいろあったっけ。仲良くなかったけど、同じ男性に騙されたという意味で、少しは親近感を持ってるわ。今、どうしてるんだろう?


 地味な子だから、今も、1人で暗く過ごしてるんだろうね。でも、私よりはいいかも。私は、人じゃなくて、動物のメスだって言われてたし。


 よく見てみると、私の周りの女性たちは、なんか私と似たような境遇みたい。お客の前だといつも笑顔だけど、帰る時にはみんな下を見て1人で泣いてる。どんなに頑張っても、浮き上がることができない。


 私は、ここの給料でスレスレ生きてるけど、ヒモの借金を背負っている人とか、どんなに頑張っても、ここから出るのは無理って感じの人も多いから。


 そして、35歳とか過ぎたら、捨てられるのかしら。男性客がつかなければ、そうなるわよね。借金は残ったまま。あとは、臓器売買されちゃうのかもしれない。


 私は、そんな世界に入ってしまったと思い、誰もいない部屋のベットで、枕を濡らしたまま眠りに落ちた。

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