第19話「筋肉の伝道者」

いったい今日は何なんだよっ!?

変な人に遭遇するのが多すぎないかな?!


《フロント バイセップス!!!》


今度は俺達の方へ振り向いてさっきのポージングの表バージョン、時折、胸筋をピクリと

動かしてアピールをしてくる。

とても笑顔で。

ドン引きしているアリスと凛、番長は変態の登場に困惑している模様。

すると変態がトウッと言ってお立ち台から

飛び上がった。

スタッと両手を地面について着地した変態

ゆっくりと立ち上がり笑顔で俺達を見てくる

そして、1歩足を踏み出すと同時にポージングを決める。


《サイド チェスト!!》


片方の腕の筋肉と足の筋肉を強調して見せつけてくる。

そして、笑顔。

また、1歩踏み出すと再びポージングを決める。


《サイド トライセップス!!!》


身体を横にして腕の筋肉を盛り上がらせて

見せつけてくる。

さらに、笑顔。

何?!何がしたいのこの人?!


《アブドミナル アンド サイ!!!!》


腹筋と脚の筋肉を全体的に強調して見せつけてくる。

とても笑顔。

かなり近くまで近寄ってきている。


《モスト マスキュラー!!!!!》


身体を前屈みにして首と肩そして腕の筋肉を膨張させてはち切れんばかりの筋肉を見せつけてくる。

その笑顔は狂喜を孕んでいるが如く満面の笑みだ。

怖い怖い!本当に何なんだよこの人?!

ベンチから立ち上がっていた俺の後ろに

アリスと凛が隠れている。

待って、ボディーガードのお二人、俺を盾にしないでよ。

目の前まで来た筋肉ムキムキの人は

ポージングをやめて腰に手を当てて待機ポーズをしている。


「やあっ!」

「え!あ、ど、どうも」

「ぼくは筋肉を広めるために《Adams》からやって来た筋肉の伝道者「町緒田 克(まちおだ すぐる)」よろしくね!」


・・・はい?Adams?また!?

と、言うか筋肉の伝道者って何?!


「ウ~ン、君、なかなかに普通な身体付きだね、筋肉が足りていないよ!」

「えっ?」

「ぼくはね、若い才能をスカウトするためにこの学園都市に不法侵入しているのさ!」


明らかに自身の悪行を何の事でも無いようにいい放つスカウトと言う名の誘拐だ。

俺の両肩に手を置いて言う。


「君も筋肉に、ならないか!?」

「嫌です!」

「ハハハッ良い返事だ!君は鍛え甲斐がありそうだよ!大丈夫!筋肉は裏切らない!」

「嫌です!」

「安心して良いよ!ぼくが24時間付きっ切りで筋肉の管理をしよう!もちろん!

365日ね!」

「嫌です!!」

「さてと!君はぼくと一緒に行くとして他の子達は──」

「輪道を放せ」


ドカッ!と、筋肉の伝道者に対して殴り掛かる番長、それを難なく受け止めた筋肉の伝道者はじっくりと番長を眺める。


「ふむ、良い筋肉だ!」

「犯罪者がこいつに近寄ってんじゃねえ!」

「これはスカウトさ!」


さらに力を込めた一撃を番長が繰り出すと

筋肉の伝道者は地面を土煙をあげながら後ろへ下げられた。


「ほう!このぼくを力ずくで動かせるとはね!」

「・・・殴った感じが嫌に硬いな、つー事は

強化系か」

「その通りさ!ぼくの能力は筋肉を硬くする能力!筋肉があればあるほど硬くなるのさ!」


そう言ってポージングを決める筋肉をピクリと動かすのを忘れていない。

アリスと凛は駄目そうだ、多分生理的に受け付けないのだろう。

ちらりと二人に目配せすると凄い勢いで顔を横に振る。

ここは番長に頑張って貰おう。


「番長!頼んだ!」

「ああっ!任せろ!」


まだ、ポージングを決める筋肉に番長が

殴り掛かる。筋肉の腕に当たった瞬間に

ガキィンッと、金属音のような音をたてる。


「ほう!どうやら君も強化系のようだね!

どうだい!君も筋肉にならないか!?」

「うるせえっ!」


番長が拳を当てる度に金属音が鳴り少しずつ

筋肉が後ろに下がっていく、しかし、それだけでダメージはないようだ。


「素晴らしい!ぼくをここまで下がらせるなんて!君はとても才能があるよ!」

「・・・」


筋肉は余裕そうに番長を褒めるが番長も何か確かめるように拳を当てている。


「そろそろぼくも手を出そうかな!」


筋肉が腕を振り上げると地面に目掛けて腕を振り下ろした。

ズドンッ!

土煙が上がり筋肉を中心に地面がえぐれている。

俺が驚いていると筋肉がこちらを見て言った


「素晴らしいだろう?これが筋肉だ!

ぼくの能力は筋肉を硬くするだけなんだよ

だから、筋肉を鍛え上げた!そして、ぼくは筋肉の可能性を見出だしたんだよ!

筋肉があればこんなことができる!

ただ、硬くするだけの能力でもね!

だから君も筋肉にならないか!?」

「あ、嫌です。」

「ハハハッ、強情だな、君は!」

「余所見なんて随分と余裕じゃねえか」

「むっ!?」


ドウンッ!と言う音が鳴り響き筋肉の身体が宙を舞う。


「うぐぅっ!」

「ようやくこっちも加減が効いた力でぶん殴れる」


殴った勢いで番長の服が腕の部分が破けている。

殴った勢いに服が耐えられなかったと言う事なのだろうか?


「な、何故?ぼくの筋肉が?ぼくの筋肉の硬さはミサイルを受けても耐えられる程なのに!」

「ああ?簡単な問題だろ?要するにだ」


番長は落ちている石を拾い上げて指先でスッ

と貫いた。

筋肉は初めて驚いた表情を見せる。


「それを上回る力でぶん殴るだけ、だろ?」

「まさか、君は!特化能力者かい?!」

「いいや、違うな、教えてやるがオレの能力は、だ・・ただの身体強化なんだよ」

「そんな馬鹿な!身体強化は数ある能力の中で一般的な物じゃあないか!そんなの特化能力でなければあり得ない!」

「そうだな、それはよく言われたよ、あり得ない、嘘をつくな、ってな」


番長は少し煩わしげに言った、拳を握り締めて筋肉に向けて突き出す。


「だがな、それが本当の事何だからしょうがねえ、しかもだ、どうやらオレのは別格って奴でな強化値が「計測不能」って事だ」

「・・・なるほど、道理で」

「さあ、ここからは一方的になるぜ?」


番長と筋肉が向かい合い動き出そうとしたその時だった。


「双方動くな!」


いつの間にやら警察官達がこの場に駆けつけたらしく何人もの警官達が集まっている。

その中の一人が前に出て来て言う。


「特殊警官執行官部隊

3番隊部隊長「斎藤 創(さいとう はじめ)」だ

悪人は処す、名乗り挙げろ」


抜き身の刀を地面に刺して筋肉に対して

そう言ったヤバそうな警官が現れたのだった




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