第4話 不登校児⑩
「……明日から学校に行く」
「え? ほ、本当に? 本当にいいの? ほのちゃん」
「……はぁ」
場所を移してリビングにて。
おばさんと唯の前で穂乃果がそう宣言した。
反応は二者二様。驚きのおばさんと、疑問を浮かべる唯。
当然と言えば当然だが、唯。もうちょい繕ってくれないか。何言ってんだこいつ、と言わんばかりの眼差しを向けるな。気持ちは分からんでもないが。
と、そんな表情の唯に穂乃果は加えて告げる。
「……そういうわけだから、帰っていいよ」
ふん、と鼻を鳴らす穂乃果。
言葉以上の感情が載っているのはあからさまだった。
まあ、経緯はともあれ不登校が学校に復帰するというのだ。荒立たずに上手いこと受け流してくれるはず。
「はぁ?」
あ、駄目そうだ。唯は真っ向からぶつかり合うつもりらしい。
「ああ、そうだな。今日はこの辺で! いやあ、学校に来てくれて良かった良かった!」
強引に割って入り、唯を押して廊下へ出る。
「おい、遊馬。待て、そもそも何があったか君にも聞きたいことが」
「まあまあ、いいじゃないですか、後で――それじゃあ、お邪魔しました!」
当然だが渋る唯を押して強引に玄関まで来た。
「……遊馬!」
そして、もう外というところで穂乃果が呼び止める。
「……また明日」
「おう、学校でな」
一瞬、何を言うかとハラハラしたが小さく手を振る穂乃果に一つ頷いて戸塚家を後にした。
戸塚家を出て、俺の家からも一旦、学校側へと引き返す少し形で遠ざかり路上で止まる。
「で、何があった?」
不満げな唯から繰り出される真っ当な問いだ。
しかし何があったのか。正直、俺もよく分かっていない。ただ自分にとって都合のいい流れに全力で乗っかったに過ぎない。問題なのは適当に報告しようにも、穂乃果にどんな心境の変化があったか分からないことだ。よって、事実として起こったことをかいつまんで話すしかない。
「なんで戸塚穂乃果は学校に行くことになって、そしてなんで私はちょっと嫌われているんだ?」
「……いや、正直俺もよく分からないんだがほのちゃ」
「え? ほのちゃ、何だその呼び方」
言い間違いを耳聡く捉えられる。
しかし、それを説明するなんてそんな照れくさいこと出来ない。
「ほ、穂乃果はゲーム配信者で普通に稼げるようになっていた。それで俺も不登校誘われたんだけど」
「おい、呼び方はなんだ? 目を逸らすんじゃない!」
そんな照れくさいことは出来ないのである。
「……俺も不登校に誘われたんだけど」
「それで誤魔化すつもりか? いや、不登校に誘う? どうして? 配信者仲間の道を進められたということか」
唯の予想を聞いて続きが言いにくくなる。
なにせ、俺に穂乃果が言ったのは養うから、だ。にわかには信じがたい。
「……いやそれが」
「なんだ、歯切れ悪いな。言ってみろ」
「…………笑わないか?」
一応、予防線を張ってみる。いや、もはや振りにしかならないか。
「それは理由次第だ。まあ、昔遊んだ時の記憶から何かしらの才能を買われて、とかだったら笑うかもしれん」
そこは嘘でも笑わないと言っておけよと思うが、唯らしい返しだった。
「……俺も養ってくれるから、だって」
「……大丈夫か? 現実と虚構の区別がつかなくなったのか? そんな都合のいい女子がいるわけないだろ」
「心配されちゃったよ……」
「いや、心配というか侮蔑だ。三軍の妄想で、百歩譲ってユーモアだとしても口にするのが気持ち悪すぎる」
「笑われた方がマシだった……」
辛辣なことを言う唯だった。
「…………本気なのか?」
俺が別の理由を言わないことに唯が改めて真偽を尋ねる。黙って頷くしかできない。
「それは、何と言うか、戸塚穂乃果は物好きなのだな……」
「それは俺も思うけど唯が言うのは違くないか? そのオブラートに包みましたみたいな表情も止めろ」
「君なんかのどこに養う価値があるんだ? 贖罪か?」
「あ、ストレートに言っていい許可を出したわけじゃないよ?」
贖罪って、この場合の穂乃果の罪はなんだよ。
「それで不登校に誘われて、どうして戸塚穂乃果は学校に行くことにしたんだ?」
「……まあ、養ってもらうのを断ったら、学校に行くって」
正確には、唯の存在が学校に来る決め手になった感じがするが割愛する。
いや、三角関係的な面倒そうな感じがしたが自分の口から言うには自意識過剰すぎるだろう。
というか、さっきこき下ろされたメンタルからすると持たない。
「断ったのか……」
「そりゃ、流石に。そこまで落ちぶれていない」
「ああ、そうか。…………見直したよ」
こつん、と肩を叩いてくる唯。
いい表情をしているが、見直すハードル低すぎない? それって逆説的に俺は穂乃果の提案に乗るくらい落ちぶれてると思われてたってことだよね。
「……まあね」
なんて言葉は飲み込んだ。
「ともあれ、戸塚穂乃果……謎が多いな。流石は若くして配信者をやってるだけあって独自の感性を持っているというわけか」
顎に手を当てて考え込む唯。
「そんな少女が――本当に明日、来るのか?」
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