第4話 不登校児④
「早速行くぞ、遊馬」
翌日、放課後、昇降口にて。
腕を組んだ唯はそう言った。やる気は十二分である。
「着いてこい。場所は頭に入ってる」
「はいはい。あれ、電車とかは乗るのか? というか、交通費は出る?」
財布にいくら入っていたかと考えながら問う。
「徒歩圏内だ。あとけち臭いこと言うな。慈善活動だぞ。報酬は笑顔だ」
「あんまりだ! って、いやいや部活だろ? 部活にするんだよな? そしたら部費出るんだよな?」
将来的な活動に不安を覚える。流石に交通費自己負担で活動はしたくないんだが……。
そんな俺の声はどこ吹く風らしい唯は先に行ってしまう。
「それで、どんな感じの生徒なんだ? 男か女か、学年すらも俺、まだ何も知らないんだけど大丈夫そう?」
慌てて追いつき尋ねる。
「ああそうだな。事前情報くらいは入れておこう。と言ってもプロフィールくらいだ。先生も言っていたように不登校の原因までは分からない」
「おう」
「その生徒の名前は、
「え?」
名前を聞いた瞬間に聞き馴染が。
しかし、どこで聞いたか、どんな人かが思い出せない。
「なんだ、知り合いか?」
「に、いた気がするんだけど…………駄目だ思い出せない」
「なんだそれ」
「確か中学、いや小学校……低学年、いや幼稚園のあれは年長さん、でもない年中さんの時か……?」
「どんどん遡っているではないか……そんなに前ではなんの手掛かりにもならないだろ。下らないことで止めるな」
「すまん……」
唯に窘められて思い出すのを止める。滅茶苦茶昔の知り合いだったのは確かだ。であれば、同じ高校に進んでいるかも不明である。
「学年は我々の一つ上の二年生。一年生の時は普通に学校に通っていたようだ。ただ目立つ生徒でもないようで、成績は教科のむらなく並み。部活も帰宅部だったみたいだ。一年生の時のクラスについても学校が知るような問題はない、普通のクラスだったらしい」
「なるほどねえ……じゃあプライベートな理由なのかな?」
「そうだと私も睨んでいる。放課後はゲームセンターで姿が散見されたこともあった。もしかしたら良からぬ連中と縁を持ったのかもな」
「良からぬ連中、か……」
もしかして武闘派展開も在り得るのだろうか? 正直、痛いのは嫌なんだが。
「なんだ怖気づいたか?」
「怖すぎるんで帰ってもいいですか?」
「帰ったら不良グループが絡む前に私が遊馬を叩き潰す」
「理不尽過ぎる……これが生徒支援部か」
「誰かを救うために犠牲は付き物だ」
「その犠牲は本当に必要な犠牲ですか?」
「……ともあれ、不良云々は冗談だ。流石に荒事になりそうなら大人を介入させる」
「だったらいいけど……」
なんて談笑しながら住宅街を行く。
のだが、俺にはつい気になることがあった。
「なあ、その生徒の家ってさ…………」
「着いたぞ。ここだ」
「…………え?」
尋ねようとしたら唯が立ち止まり、目的地への到着を知らせる。
嫌な予感というか、はめられた感があった俺は目的地の住所に何も言えなくなる。
学校から歩いて来た道中は俺の通学路をそのまんまなぞっていた。
てっきり俺は、不登校の生徒の家に行くと言いながら唯がどこかから入手した俺の家に、これまたどういうわけか分からないが押しかけてくる腹積もりなのではと思っていた。
だが、その毒気は抜かれてしまう。
なにせ、不登校児の家は俺の家の隣であった。
「戸塚……うむ、間違いないな」
表札の文字を見て確信を得た唯は、そのまま流れるようにインターホンを押したのだった。
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