4−16 ダンとの別れ

「ジェニファー……どうしてなんだよ……? 相手は式も挙げてくれない、結婚指輪だってくれない冷たい男なんだぞ? それなのに何でだよ……」


青ざめた顔でジェニファーを見つめるダン。


「ダン、お願い。そんな言い方はしないで」


「何だよ! そうやってあいつを庇うって言うのか? 俺とジェニファーの方がどれだけ長い時間一緒に過ごしてきたと思っているんだよ!」


「違う、そうじゃないわ。落ち着いてダン。ここはニコラスが所有する城なのよ? 誰かに聞かれたらどうするの? 相手は侯爵様なのよ? 平民のあなたが逆らってはいけない方なの。」


「俺のことを心配しているなら、ここを出よう。裕福な暮らしは約束できないけど、それでも生活に苦労はさせないって誓うよ」


まるでプロポーズにも取れるようにジェニファーに訴える。

するとジェニファーは悲しげな表情を浮かべてダンを見つめた。


「ダン……私の話、理解できていないの? 私はニコラスが好きなの。例え彼が私を憎んでいても、それでも側にいたいのよ」


(そう……彼に捨てられるまでは……)


「まだそんなこと言うのかよ……侯爵の何処がいいっていうんだ?」


「ダンには分からないだろうけど、ニコラスは誠実で優しい人なの。私はジェニーを苦しめてしまったわ。私はニコラスから憎まれても当然なの。それなのに彼は私を色々気遣ってくれているのよ。私を侯爵夫人と認めない使用人を全員解雇したり、居心地が悪い侯爵家から少しの間離れられるように、こうやって『ボニート』での生活を与えてくれたのだから」


ダンにしてみれば、いずれも大したことがない話だった。けれどジェニファーにとってはどれも重要なことだったのだ。


(それだけ、ジェニファーは侯爵のことが好きだってことなのか……結局、俺は1人の男として見てはもらえないのか……)


ジェニファーの心の隙に自分が入り込む余地など無いことをダンは悟った。


「そうか……ジェニファーの気持ちが良く分かったよ」


ポツリとダンは寂しそうに呟くと、ジェニファーに大輪の花を包んだクロスを手渡してきた。


「ダン……」


ジェニファーはクロスを受け取ると、じっとダンを見つめる。


「悪いな。この花、中まで運んでやることが出来なくて」


「ううん、そんなことないわ。ここまで運んでくれてありがとう」


「ジェニファー、今度はいつ会えるか分からないけれど……元気でな。手紙、書くよ」


「ええ、ダンも元気でね。手紙楽しみに待ってるわ。私も返事を書くわね」


笑顔で頷くジェニファー。


「……行けよ」


ダンが顎で城をさした。


「え?」


「見送りはいいから城へ入れよ。ジェニファーが中に入る様子を俺がここで見届けているから」


「え? ええ。分かったわ。元気でね、ダン」


「ああ、元気でな」


笑顔でダンは手を振る。

ジェニファーはダンに背を向けると、門を通り抜けて城へ向かって歩きだして行く。

遠くなっていくジェニファーの後姿をじっと見つめるダンの目に……いつしか涙が滲んでいた。


「さよなら……ジェニファー……」


ダンはこうして、子供の頃から愛していたジェニファーに別れを告げた——

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