4−14 ジェニファーの罪滅ぼし
真っ白な大きな屋敷は、青い空に良く映えた。屋敷の周囲には色とりどりの野花が咲き乱れ、それは美しい光景だった。
屋敷をじっと見つめるジェニファーの緑色の瞳は悲しみを称えている。
今にも泣きそうな表情を浮かべているジェニファーの姿に、ダンはもう黙っていられなくなった。
「ジェニファー、 何でここへ来たんだよ? ここはジェニファーにとって、辛い思いでしかない場所だろう? こんなところに長居は無用だ。行こう!」
ダンはジェニファーの腕を掴んで引き返そうとすると、その手を強く振り払われた。
「ダン! 離して!」
「何でだよ? そんな今にも泣きそうな顔してるのに……何故、ここにとどまろうとしてるんだよ?」
すると、ジェニファーが静かに語った。
「ダン、周りを見て」
「え? 周りって」
言われるまま周囲を見渡すと、色とりどりの花が咲き乱れている。
「どう? ここに咲く花……とても綺麗でしょう?」
「あ、ああ。確かに綺麗だが、この花がどうしたんだ? 単なる野花じゃないか」
「ジェニーはね、本当は都会に住んでいたのよ。でもとても身体が弱くて喘息の持病を持っていたの。都会の空気は身体に悪いからって、フォルクマン伯爵があの別荘を買って、ここで療養生活をしていたのよ」
「知ってるよ。だけど外に出ることも出来ないから、話し相手にジェニファーがここに連れてこられたんだろう?」
何故今更そんな話をするのか分からず、ダンは首を傾げる。
「ジェニーは、花が好きだったけどそれも部屋に飾れなかったの。花粉も喘息に良くなかったから。だから別荘から見える、このポピーの花が大好きだったの」
ジェニファーはかがむと、オレンジ色のポピーを1輪摘むと立ち上がった。
「私は具合の悪かったジェニーを残して、町へ遊びに行ってしまった。そのせいで危うくジェニーは死にかけてしまった。だからフォルクマン伯爵からも、ニコラスからも憎まれて当然なの」
「ジェニファー……一体何が言いたいんだよ?」
「私はジェニーのお墓も、亡くなった日も知らない。誰も教えてくれないし、聞くことも出来ないわ。今の私がジェニーの為に出来ることは、彼女が好きだった花を摘んで……ジェニーが使っていた部屋に飾らせてもらうことなの。こんなことが罪滅ぼしになるとは思えないけれど、今の私はそれ位しか出来ないから」
「……! そんな……!」
今の台詞で、ダンはジェニファーがどれ程心に深い傷を負って生きてきたのかを理解してしまった。
そして、それと同時にフォルクマン伯爵とニコラスのことを酷く憎んだ。
(伯爵……それに、あの男……許せない! 俺の大切なジェニファーをこんなに苦しめるなんて……!)
ダンは拳をグッと握りしめた。けれど、相手は貴族。平民のダンは権力の前では何も出来ない。
気付いてみるとジェニファーは、ポピーの花を摘んでいる。
今のダンに出来る事と言えば……。
「ジェニファー。俺にも花を摘む手伝いをさせてくれ」
「本当? ありがとう、助かるわ」
「まかせとけって」
こうして2人はポピーの花を摘み始めた。それを木の影から見つめるシド。
「一体、2人は何をしているのだろう? まさか花を摘む為だけに……この場所へ?」
シドは2人に集中するあまり、気づいていなかった。
別の場所からニコラスが花を摘んでいるジェニファーとダンを見つめていることに。
やはりニコラスもジェニファーのことが気がかりで、後をつけていたのだ。
「何故だ……? どうして、ジェニファーがフォルクマン伯爵が所有していた別荘を知っているんだ?」
15年に自分が会っていた人物が、実はジェニファーだったことなど知る由も無い。
ただ呆然とジェニファーを見つめるニコラスだった――
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