4−12 プレゼント選び

「いらっしゃいませ」


ダンと店に入ると、30代と思しき女性がカウンター越しから声をかけてきた。


「あの、少し品物を見て回っても良いですか?」


「ええ、勿論です。気になる商品があれば、いつでもお声かけ下さいね」


ジェニファーの言葉に、女性店員は笑顔で返事をする。


「ありがとうございます」


早速ジェニファーはショーケースに並べられたアクセサリーを見て回ることにした。

ジェニファーが探しているのは、ジェニーにプレゼントしたウサギのブローチだった。


(恐らく無いとは思うけど、せめて似たようなブローチが売っていないかしら)


あの時のウサギのブローチ……口にこそ出さなかったものの、実はジェニファーもあのブローチが欲しかった。

動物好きなサーシャとお揃いでウサギのブローチを持てたらどんなにか素敵だろうと考え、この店に入ることにしたのだ。


ショーケースを熱心に見つめているジェニファーにダンが声をかけてきた。


「ジェニファー。随分熱心に品物を見つめているようだけど、何を探しているんだ?」


「ブローチを探していたの。出来ればサーシャとお揃いで可愛らしい動物のブローチが欲しいと思って」


「動物のブローチか……お? これなんかいいんじゃないか?」


「え? どれかしら?」


ダンが見つけたのは猫の形をしたブローチだった。丁度2種類のデザインが並べられている。


「どうだ? 可愛らしいじゃないか。それにサーシャは猫が好きだったからな。よく野良猫に餌をあげたりしていたのを覚えているか?」


「ええ、そうだったわね。ならこれにするわ」


本当はウサギのブローチが欲しかったが、ざっと見て回った限りでは見つからなかった。それに何よりサーシャが好きな猫のブローチをダンが見つけてくれたのだから。


「良かった。ジェニファーの役に立てて。店の人を呼んでくるよ」


嬉しそうにダンは笑顔を見せるとカウンターへ向かい、すぐに店員を連れて戻って来た。


「すみません、こちらのブローチをそれぞれ下さい」


「はい、かしこまりました」


ダンの言葉に女性店員は鍵を開けて、猫のブローチを取り出した。


「では会計をしますので、こちらへいらして下さい」


「はい」


ジェニファーがついて行こうとするとダンが止めた。


「いいよ。俺が払ってくるからジェニファーはここで待っていてくれ」


「え!? 何を言ってるの? ダン。私が買うわよ。そのつもりで来たんだから」


「いいって。俺に2人のブローチをプレゼントさせてくれよ。商売がうまくいっているおかげで、こう見えても俺は金を持っているんだ」


「でも、駄目よ。姉としてダンに買ってもらうわけにはいかないわ」


すると……。


「ジェニファー、聞いてくれ」


ダンがジェニファーの両肩に手を置いた。


「俺はジェニファーのことが好きだから、プレゼントしたいんだよ。頼む、プレゼントさせてくれ」


「ダン……」


ダンの顔は真剣で、どこか切羽詰まっているようにも見える。


(そんなに深刻そうな顔をしなくても……)


そこでジェニファーは口元に笑みを浮かべた。


「分かったわ、ダン。それじゃ、折角だから買ってもらおうかしら?」


「良かった。俺の気持ちを受け入れてくれて。それじゃ、買ってくる」


ほっとした笑顔を見せると、ダンは店員が待つカウンターへ向かった。


勿論、ダンの「好き」という言葉をジェニファーが勘違いしているのは言うまでも無い——



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る