3-16 許可したのは

 昼食を終え、ジョナサンを寝かせつけた後にシドがジェニファーの部屋を訪ねて来た。


「ジェニファー様。お時間を取って頂き、ありがとうございます」


「そんなこと気にしないで。ジョナサンもさっき、お昼寝に入ったばかりだから当分目が覚めないと思うし。どうぞ、かけて」


「ありがとうございます」


椅子を勧められて座るとジェニファーも向かい側に座った。


「シド。用件は何かしら?」


「報告したいことがあって、訪ねたのですが……ジェニファー様。本日俺の不在時に何かありましたか?」


シドはじっとジェニファーを見つめる。


「え? どうしてそんなことを聞くの?」


「いえ、ただジェニファー様が普段よりも元気が無いように見えたので」


「そう? 私はいつもと同じよ。何も変わりないと思うけど?」


「いいえ。少なくとも俺の目にはそうは見えません。何かあったのですよね?」


シドは身を乗り出した。


「シド……」


「俺はニコラス様からジェニファー様を見守るように命じられています。もし差し支えなければ何があったのか、話していただけませんか?」


ニコラスからそこまで、踏み込むような命令は一切受けていない。けれどシドはどうしても憂いの表情を浮かべているジェニファーを放っておけなかったのだ。


そんなシドを見て、ジェニファーは思った。


(あまりシドを心配させるわけにはいかないわよね。私は護衛してもらうような身分でも無いのに)


「分かったわ……あのね……」


そこでジェニファーは、中庭に置かれた温室の話をした。

あの温室には品種改良した青いバラが栽培されており、ジェニーローズと名付けられていること。

そしてメイド達が、いかにジェニーを大切に思っていたかを。


「短い生涯だったけどジェニーは幸せに生きられたようで安心したわ。だって彼女は私にとって大切な存在だったから。でも残念だわ……出来れば、ジェニーが生きている内にもう一度会って話をしたかったのに」


ジェニファーは寂しげに笑う。


「……そんなことが、あったのですか……?」


シドが何処か苦しそうに問いかける。


「でも私の様子がいつもと違うって、よく分かったわね。シドの目はごまかせないみたいね」


「そんなことは当たり前です。何故なら俺は……」


そこまで言ってシドは言葉を切った。


(今、俺は一体何を言おうとしていたんだ……?)


「どうかしたの?」


「いえ、何でもありません」


自分の中に込み上げる訳の分からない感情に戸惑い、シドは首を振った。


「そう? でも今の話はポリーにはしないでくれる? 余計な心配はかけさせたくないの」


「つまり、俺とジェニファー様2人だけの秘密ということですね?」


「秘密……? ええ、そういうことになるかもね。それでシドの報告したいことって何?」


「それ……は……」


俯き、唇を噛むシド


(どうしよう……今の話を聞いてしまったのに、こんなことを口にしてもいいのだろうか……? だが、やはり伝えないと……)


「どうしたの? シド」


「ジェニファー様……落ち着いて聞いて下さい。本日、例の写真の件で写真屋に行って、展示を取り下げて貰うように話してきました」


「そうだったの? 早速行って来てくれたのね? どうもありがとう」


「ええ。それで誰の許可を得て写真を展示したのか確認したところ……どうやらその相手はジェニー様だったようです」


「……え?」


ジェニファーの顔が青ざめた――



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る