3−23 ネックレスと写真

 3人はアクセサリー屋に来ていた。


「ジェニー。どのアクセサリーが欲しいの?」


ショーケースをじっと見つめているジェニファーにニコラスが尋ねた。


「そうね……。どれがいいかしら。……あ」


その時、一つのアクセサリーがジェニファーの目に止まった。それは美しい青色の蝶のネックレスだった。


(なんて素敵な青……まるでジェニーの瞳の色みたい)


ジェニーの青い瞳が大好きだったジェニファーは同じ色のネックレスに見惚れてしまった。


「ジェニー。ひょっとしてこれが気に入ったの?」


ニコラスがネックレスを指差す。


「え? ええ。とても綺麗なネックレスだと思って」


「だったら、これをプレゼントさせてよ」


ジェニファーはチラリとネックレスの値段を見た。それはジェニーにプレゼントしたブローチよりも高額だった。


(私なんかがジェニーよりも効果なアクセサリーをプレゼントしてもらうわけにはいかないわ)


「だけど、高いし……」


「これくらいなら、どうってことないから」


そしてニコラスは傍にいた女性店員に声をかけた。


「このネックレスを下さい」


女性店員は笑顔で返事をすると、蝶のネックレスをショーケースから取り出した。


「金貨1枚になります。お包みしますか?」


「いいです、そのまま下さい」


金貨1枚を支払うとニコラスはネックレスを受取り、ジェニファーに向き直る。


「ジェニー。後ろ向いて」


「は、はい」


戸惑いながら後ろを向くと、ニコラスはジェニーの首にネックレスを付けてあげた。


「はい、いいよ」


「あ、ありがとう……」


「まぁ、とってもお似合いですわ」


女性店員が笑顔で褒めると、ニコラスも頷く。


「うん。とても良く似合っているよ」


「ほ……本当?」


「本当だよ、シドもそう思うだろう?」


「はい、似合っていますね」


無表情で頷くシド。


「ありがとう、ニコラス。私、このネックレス大切にするわ」


ジェニファーは蝶のネックレスを握りしめた――



****



「写真は出来上がりましたか?」


写真屋に戻ると、ジェニファーは早速店主に尋ねた。


「ええ、出来上がっておりますよ。こちらです」


店主はカウンターの上に出来上がった3枚の写真を並べた。


「良く映っているわ……」


ニコラスだけが映っている写真を見つめるジェニファー。


(きっと、この写真を見ればジェニーは喜ぶに決まってるわ)


「ジェニーもとても綺麗に映っているよ」


ニコラスはジェニーが映り込んだ写真を嬉しそうに見つめている。


「僕と、ジェニーで1枚ずつ持っていよう?」


「そうね」


ジェニファーは2枚の写真を受け取ると笑顔で返事をし、すぐに我に返った。


(そうだったわ、すぐにジェニーの元へ戻らないと!)


「ごめんなさい、ニコラス。私、今日はもう帰らないと」


「そうだったよね、分かった。それじゃ行こう」


ニコラスはジェニーの手をつなぐと、シドを連れて店を後にした――



「ジェニー、急いでるなら今日は辻馬車で帰ったほうがいいよ」


「辻馬車で……帰る?」


今まで馬車を使うという発想が無かったジェニファーは首を傾げた。


「俺もその方がいいと思います。早く帰らなければならないのですよね?」


珍しく2人の会話にシドが入ってくる。


「分かったわ、それなら今日は辻馬車で帰ることにする」


そこで3人は辻馬車乗場へ向った……。



****


「それじゃ、ジェニー。また2日後、会おうね。シドを迎えに行かせるから」


馬車に乗り込んだジェニファーにニコラスは笑顔で話しかけてきた。


「ええ。また会いましょう」


ジェニファーは幸せな気持ちで帰路についた。



しかし、少女はまだ何も知らない。


ジェニファー不在のフォルクマン家で、大変なことが起きている事を。

そして、この日がニコラスに会える最後の日となってしまうことを――

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