3−9 行ってきます

 翌日13時半――



外出着に着替えたジェニファーはジェニーの部屋にいた。そろそろ町へ出発する時間が迫っている。


「はい、ジェニファー。これを持っていって」


ジェニーが懐中時計を差し出してきたので、受け取るジェニファー。


「これは……時計?」


「ええ、そうよ。これがあれば、いつでも時間を確認することが出来るでしょう?」


「ありがとう、借りていくわね。無くさないように大切に持っていくわ」


ジェニファーの言葉にジェニーは首を振った。


「あら、違うわ。その時計はジェニファーにあげるものよ」


「え!? こんな高級そうな懐中時計を?」


懐中時計は高級な品であり、庶民にはまだまだ手の届かない品物であった。それなのにプレゼントしてくれたことにジェニファーは驚きを隠せない。


「ええ、あげるわ。私達の友情の証よ? それで、ジェニファー。ニコラスと会う時は……その、私の名前で会っているのよね?」


「そうよ、ニコラスは私がジェニーだと思っているわ」


本当は、ニコラスにも教会にも嘘をつきたくは無かった。ジェニーとしてではなく、ジェニファーとして、皆の前に現れたかった。

けれど、そんなことは口が裂けてもジェニーの前では言えない。


ジェニーはジェニファーのことを友達だと言ってくれてはいるけれども、その立場は対等では無いのだから。


「そうなのね? ニコラスは私だと思っているのね?」


嬉しそうに笑顔を見せるジェニーを見つめて、ジェニファーは思う。


(そうよ、私の役目はジェニファーを笑顔にすることなのだから)


「それじゃ、そろそろ行ってくるわね」


ジェニファーは帽子をかぶり、ショルダーバッグを肩からかけた。


「ええ、行ってらっしゃい」


「何か、お土産買ってきましょうか?」


「お土産? どんな?」


ジェニーの言葉に、ジェニファーは少し考え込む。


「う〜ん……そうね。例えば……キャンディーとか、クッキーとか……」


「お菓子は沢山あるから大丈夫よ」


「だったら何がいいかしら?」


「なら、アクセサリーがいいわ。ブローチが欲しいの」


「どんなブローチがいいの?」


アクセサリーのことが良く分らないジェニファーは首を傾げた。


「そうね……あ、それなら動物の形をしたブローチがいいわ」


「動物の形ね、分かったわ。素敵なのを見つけて買ってくるわね」


「お金は大丈夫なの? あげましょうか?」


ジェニーの顔に心配そうな表情が浮かぶ。


「お金なら大丈夫よ。ジェニーのお父様から貰っているもの。大体あなたへのお土産を買うのに、お金を貰ったらお金を貰ったらおかしいでしょう?」


実際、フォルクマン伯爵家等からジェニファーは使い切れないほどのお小遣いを貰っていた。


「そんなに高級なもので無くて大丈夫よ? ジェニファーが選んでくれたものなら何だって嬉しいから」


「フフフ。分かったわ、それじゃ行ってくるわね。ジェニー、体調が悪かったら大人しくしていてね?」


「ええ。行ってらっしゃい」


ジェニファーは、ジェニーに見送られながら部屋を後にした――


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